第19話 【 つかさと会話 】
「つかさ、話、していい?」
二人ともご飯を済ませ、コーヒーを飲んでからやっと私から声をかけた。
「ごはん、美味しかった?」
「うーん、まあまあ、美味しかった。こうじさんの和食は」
「うん、美味しかった。俺、なんでも食うしね。メキシコにもたくさん美味しいものあるみたいだから、着いてからも色々食べよう。なんでも食べれる? 」
「うん、だいたい大丈夫」
「良かった。娘とかは、トマトがダメだとか言うしね。食べれない物があったら先々困るから。ところでさぁ、お母さん、美人やね。めちゃ若い。つかさ、長女なのにまだ19やしね。うちの娘とも10歳も違うもんなぁ。若くて当然かなぁ。お母さんと付き合ってもいい?」
「うーん、お母さんつまんないよ。私じゃダメなの?」
「あはは、つかさ付き合ってくれるの? なら全然つかさがいい。ほんとに付き合ってくれるの?」
私は少し嬉しくなって、ついつい本気にしてしまった。
「だって、もうこうやって、一緒に旅してるじゃない。もう付き合ってると思うけど」
「そっか、そうだね。仕事かと思ってた」
「これ、仕事なんだ。だから旅費払ってくれてるんだ」
「いや、違う、違う。まだ、小説で食べていけるって全然思ってない。俺の趣味につかさの希望が折り合って、付き合ってくれてる? あっ、付き合ってくれてるね。ありがとう」
「ほらね。やっぱり付き合ってるでしょ」
「あのさ、つかさ、彼氏とかいないの? いるよね。こんなに可愛いし、いない訳がない。大丈夫だった? 彼氏、メキシコ行くこと許してくれたの? 」
「うーん、男の友だちはたくさんいるけど、彼氏っちゅう彼氏はいない。だから特に許可は要らない。それに女の子の友だちは、イマイチ苦手だから少なくて、男友だちの方が面倒くさくなくていい。中学の頃までは女の子の友だちもいたんだけど、いなくなっちゃったし」
「そうなんだ。なんか俺の嫁さんみたいやね。嫁さんも女友だちあんまりいないし、ぎこちなく付き合ってる。男友だちの方が多い。女友だちは俺の方が全然多い」
「ふーん、奥さんと似てるから私に声かけたの?」
「いや、それはないと思う。でも、嫁さんもちょっと天才的なところはある。集中したらご飯も食べなくなるし、時間を忘れてる。勉強も何もしなくて国立大通ってるし、英語がなかったら東大も通ってたとも言ってた。英語はさすがに勉強しないと出来ないだろうからね」
「へえ、奥さんもギフテッドなのかな?」
「そっか、つかさは、ギフテッドだからまたそれの上を行くレベルだね。つかさも東大行こうとか思わなかったの? なんでも完全に記憶出来たら勉強なんて簡単じゃん」
「いやあ、記憶は出来るけど、数学は出来ないから無理。中学の時、一回だけクラスで一番取ったことがあるけど、それは、黒板に書いた問題と解答からテスト出すと言って、先生が数字を替え忘れて出しちゃったから絵的に覚えてて、そのまま書いちゃったら100点だった」
「でも、すごいよね。全部覚えちゃうなんて、俺なんて、年取ったら、さっきまでもう完璧と思って覚えた事を書こうとするともう忘れてるよ。遠い昔の事は、やけに鮮明に突然、思い出すこともあるんだけどね」
「私も全部覚えてるわけじゃないよ。何も覚えていない空白期間がたくさんある。例えば、夢のことは見てないのか、どうしても思い出せないし、寝ぼけて色んな事しているみたいだけど、その事はお母さんから聞かされるだけで何も覚えてない。そうそう、私がクラスで一番取るまでずっと一番だったあゆみちゃんっていたんだけど、その後どこへ行ったのか全然思い出せないんだよね。気づいたらいなくなってたし」
「そうなんだ。完全記憶能力者だけど、完全じゃないんだ。時系列的や場合によっては完全に記憶するってことじゃないってことだね。そりゃ、全部完全に記憶しちゃったら、つかさもパンクしちゃうね」
「そ、そうかな。
「のんちゃんが出てたギフテッドのドキュメンタリー番組をNHKで見たんだけど、才能や能力が有ってもそれが皆とかけ離れてるが故に、なかなか一般社会にはすんなりとは馴染めないみたいね。つかさもそれで学校、辞めちゃったんやね」
「うーん、そうでもないけど、先生に文句ばっかり言ったり、無駄な授業サボってたら留年した。記憶してるから先生が一度言ったことと違うことを言うと許せないんだよね。気になっちゃって」
「あはは、他校の生徒と喧嘩したり、暴走族やったりしたわけじゃないんやね。最初、可愛いのに不良娘かと思ってた。でも、つかさは良い子で良かった。ヒロインの性根が悪い子だったら話になんないからね」
「不良と言えば不良だけどね。こうじさんは、不良だったことなかったの? タバコも吸ったことないと言ってたけど」
「うん、タバコは吸ったことない。小さい頃、親戚中が集まってた時、火鉢の中のタバコの吸殻を触って遊んでいたら、髪、真っ白で、背筋しゃんとした親戚の中の大お婆様みたいな人にこっ酷く怒られて、それからタバコはいけないもんなんだと思って、一切吸ってない。高校時代は、陸上で長距離やっていたから吸ったら走れなくなると思ってたし、誰からも勧められなかった。大学の野球部では吸ってる奴、何人かいたけど、吸わなかった。臭いも嫌だったし、カッコいいと思ったこともない。ただ、パチンコはやってたから受動喫煙にはなってたかな? それが原因で血管が脆くなって倒れたのかもしれないから結局、不良だね」
「あはは、パチンコやってたんだ。やったことないけど、やってみたい」
「パチンコは、18歳からだからつかさはいつでも行けるけど、俺はダメ。嫁さんに禁止されてる。だから連れて行けない。依存症だったからね。今でも勝てると信じてるけど、依存症になるからやらない方がいい。時間がもったいない。パチンコやめてから時間が出来て、小説も書けるようになったんだけどね。今でもやったら稼げると思ってる。ねえ、依存症でしょう。つかさも行ったら狙い撃ちされるよ。最初、ボンボン勝って、気づいたら依存症になってる。新型コロナで、緊急事態宣言、自粛要請が出た時でも依存症の人たちパチンコ屋に並んでたでしょう。そうなっちゃう。俺も止めれないかなと思っていたら、倒れたし、嫁さんの絶対命令でとりあえず止めれてる。おかげで、つかさにも逢えた」
「つかさはタバコ吸わないでくれ。パチンコ依存症にもならないでくれ。せっかく可愛いのが台無しになる」
「いやー、そう言われると益々パチンコやってみたい」
「分かった。後で裏の仕組みも全部教えるから、それが分かってから少しだけやればいい。言っておくけど、最初は勝つからね。騙されちゃいかんよ」
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