第20話 【 年齢差 】


「へぇ、不思議」

「タバコはダメ、タバコ吸っても何もいいことない。もし、吸ったらキスしてやらない。ああ、吸ってなくても俺とはしないか。いや、彼氏にもそう言われるかも」

「そうね。タバコは吸わない。私も臭い嫌い」

「ありがとう。さすが、つかさ」

「つかささあ、まだミャンのバイト続けるの? 」

「たぶん、続ける。楽しいし、面白い。こうじさんみたいな変な人来るし」

「えーっ、変? 変かぁ。まあ、ちょっと嬉しいかな。普通で目立ってないよりいいかも」

「まあ、変な人、多いけどね」

「ストーカーとかに巻き込まれないようにしてね。つかさは、可愛過ぎるから。まあ、一人はここにいるけど」

「あはは、こうじさん、ストーカーなの? 」

「ちょっと、それっぽい。ストーカーの純粋な気持ち分かる」

「ストーカーしたことあるの? 」

「うーん、テレビに出るような、しつこく付きまとったりしたことはないけど、好きな人には、偶然でも会えないかなあといつも思う。つかさも見失ってから、もう一生会えないんじゃないかと、ずっと不安だった。名前も電話番号も何も教えてもらってなかったしね。新型コロナで動けなくなって、つかさもミャンに出なくなって、写真もボヤッとしたポラロイドしかなくて、しようがないからNHKのドラマに出ていたルカちゃんがつかさに似てるなと思って、一生懸命見てた。ルカちゃんのファンにもなっちゃったよ。ほんとあそこで再会できたのは奇跡だよ。つかさは何も店のツイッターに痕跡残してないんだもん。ストーカー泣かせやね。画像検索もしたけど何も手がかりはつかめなかったよ」

「えー、ルカちゃん。似てるの、私? 何も投稿してないし、高校生はするなと言われてた。ルカちゃんってどんな人? 」

「これこれ、沖縄出身の女優さんみたい」私は、以前ネットで検索してスマホに保存しておいた画像を見せた。

「似てる? ちょっと大人な感じ」

「うん、似てる、似てる。今つかさを見ても似てる。まあ、ちょっと可愛い子はみんなつかさと重ねてしまってたけどね。つかさの顔がだんだんぼやけてきてたから他の本物に頼ってたのかな? ずっと恋してたのに会えなくて、将来会えるかどうかも手がかりも無くなって、記憶の中のつかさが消えて行くのが怖かった」




「えー、そんな。あの晩 会っただけなのに。オーバーじゃない。私そんなに可愛いくないし、普通だよ」

「可愛いのは間違いないし、可愛い。でもそれだけじゃない気がしてた。絶対再会しなければいけない人だと思って一年半過ごしてた。だから再会した時は、ほんと嬉しかったし、夢を見てるようだった。ボケていく顔じゃなくて、リアルなつかさに会って、夢のようっていうのは変かな」

「大丈夫だよ。私消えないし、こうじさんの記憶全てちゃんとある」

「怖かったんだって。街に捜しに行ったところで、はっきりした顔がわからないし、だいいち、新型コロナで出かけられないし、つかさも出かけてこないだろうし、もっと、色々手がかりを訊いておけば良かったと思った」

「そうなんだ。私のことが好きになったんだ。面白い。何歳違うのかな? こうじさんいくつ?」

「60」

「えっ、そっか、60歳なんだ。私、19だから、うーん、何歳差?」つかさは私に答えを求めて来た。やっぱりか。

「41歳差」私はこれまでにも計算して、この差は大きいといつも思っていたし、最初は「四一歳差恋」というタイトルで小説を書き始めていたので、計算することなく、即、答えた。

「早っ、41歳かぁ。うーん、私、数字あんまり分からないからなあ。どうだろ?」

「例えばだよ、仮に、つかさが20歳の時、結婚したとするじゃん。翌年子どもが生まれたとして、その子が20歳になった時、つかさは41、ぼくは82だ。ヤバイね」

「ほんとだ、かなりヤバイね。こうじさん生きてる?」

「あははは、大丈夫、ぼくは、死にませぇーん。あっ、ごめん、古かった。昔のドラマ。『何とかのプロポーズ』 知らんよね? いや~、それまでずっと年金暮らしだで。子育てなんて無理やね。ごめん、つかさ働いて」

「えー、82まで?」「違う、違う。つかさは41だよ」

「あっ、そうか」

「どっちにしろ、ぼくにお金がないと無理やね。ダメかあ。カトちゃんが結婚したやん。カトちゃん夫婦って、45歳差なんだって。

凄いね。財産も凄いんだろうね。

ああ、お金がある人だけそんなことが出来るんだろうな。カトちゃん、やっぱり凄いなあ。憧れるなあ。もう何歳かなあ? もう80に近いのに30くらいの嫁さんだもんな。俺が小学校の頃からスターだった。『全員集合』は、全盛期だったしね。去年、新型コロナで亡くなったシムラさんは、途中から入ってきた新人さんだったんだ。シムラさんは、それから一気に子どもたちの人気者になったけど、俺は、ずっとカトちゃんのファンやったね。俺が倒れる前ね。会社でね。磁器製の大型万華鏡を作ったんだ。そんで、それの設計とか製作の担当をしたんだけど、万華鏡の覗き穴の部分だけ、製造の人に頼めなくて、自分で、せっせと削ったんだよね。大型万華鏡は何種類か造ったんだけど、それが結構話題になってね。テレビのバラエティ番組にも出たんだよね。そしたらそれに出演していたカトちゃんが、その万華鏡を覗いたんだ。俺はそれをテレビで見て、超、嬉しかった。俺が削った穴からあのカトちゃんが覗いてるってね。テレビ世代じゃないつかさにはこの気持ち分からないかな」

「カトちゃん、あんまり分かんない。シムラさんは動物番組出てたから見てた。万華鏡、私も小学校の頃作ったことある。磁器で作ったらなんか凄いの?  磁器って?」

「磁器ね、茶碗とか、白い焼物。がいしって前に説明したよね」

「電柱とかについているやつ。ラモさんが見に来たってやつ」

「そうそう、さすがギフテッド、アンフォゲッタブル。あのがいしも磁器なんだ。そのがいしの材料を使って大型万華鏡を造った。磁器で造ったからと言って、外側が綺麗なぐらいで、中が綺麗かどうかは変わらないし中身に何をいれるかとか何を見るか次第なんだけどね。万華鏡って、筒の中に模様の素を入れて筒を回すだけかと思ってたら、模様を回すってタイプもあるんだよ。風景や花なんかを覗いて筒を回すタイプもある」

「へぇ、そうなんだ。面白い。見てみたい」

「佐賀に来たら会社のショールーム連れて行くから見れるよ。小さいので良かったら、つかさの分も買ってあげる。万華鏡の第一人者の方や鉄アートのテレビチャンピョンたちともコラボして造った。その万華鏡、アメリカであった万華鏡世界大会にも出品したんだ。今、地元の宇宙科学館にも展示されている。三台ぐらいしか造ってないけど、一台300万円ぐらいしたらしい」

「凄い、それも見たい」

「了解、宇宙科学館も案内しましょう。それさあ、テレビ番組でも取り上げられて、ぼくもチラッと映ったんだ。そしたら親戚から『さっき、こうじ、テレビに映ったよ』って直ぐに連絡があった。テレビって凄いでしょ。驚いたのはその番組を作った番組制作会社に娘が入ったことなんだよね。不思議でしょ? つかさたちは、テレビ見ないんだろうけど少しは見てやってね」

「凄い、面白い」

「あっ、ごめん、自慢話みたいになっちゃった。嫌われるパターンやね。ありがとうね。こんな話、長々と聞いてくれて。そろそろゆっくりして映画でも見る? 俺は、つかさが寝てる間にターミネータ・ダークフェイトって映画見た。ターミネータって知ってる? ターミネータ1のエンディングで、メキシコが出て来るから気になって見てみた。つかさも見る?  いや、つかさの好きなもの見て。俺は少し寝るよ」

「うん、チャンネル見てみる。おやすみ。たぶん私もまた寝る」


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