第14話 【 朝食 】


朝7時頃、いつも起きている癖で私は、目を覚ました。窓の外は既に明るいようだ。つかさはベッドの布団をちゃんと着て寝ていた。私がかけたスローは私の上に載せられていた。途中で起きたのか、イビキがやかましかったかもしれないな。しかし、つかさは、すやすやと再び眠っているようだった。若い時は朝から眠いものである。そのまま起こさないようにしようと、私も布団を載せてまた横になった。

次に目を覚ましたのは、9時前だった。すっかり眠ってしまったようだ。つかさは、まだそのまま寝ている。そろそろ起こさないと10時までの朝食に間に合わない。私はつかさの枕元に立ち、唾を飲みながらそっと肩を触り「つかさ」と呼んでみた。しかし、全く反応がない。今度は、やや強く肩を叩きながら耳元でもう一度「つかさ」と呼んでみた。つかさの首筋にまた唾を飲んだ。しかし、まだ反応がない。このまま寝ている間にキスでもしてやろうかとも考えたが、思い留まり、「朝ごはんだよ」と声をかけた。するとつかさはパッチリと目をあけた。キスをしなくて良かったと思った。

「おはよう。俺のイビキで眠れなかったんやろ? ごめんね」私は、自分ではどうだったか分からなかったが、一応、先ず謝った。

「おはよう。そうなの、あんまり覚えてない」

「ベッドスロー、俺にかぶせてくれてたやん。そん時、やかましくなかった?」

「ううん、覚えてない。私がかぶせたの?」

「うん、たぶん。朝ごはん、10時までだから9時半くらいまでには行かないと。行けそう?」

「大丈夫、行く」とつかさは言ってすっかり目を覚まし、ベッドを降りた。

レストランは、フロントがある3階の奥にあった。朝食はビュッフェスタイルで、 私たちはそれぞれのトレーを持ち、料理全体を眺めた。奥には、朝からカレーもあるようだ。席には、遅い時間にも関わらず、まだ3、4組は残っていた。「つかさ、先にどんどん取っていいよ。俺は、ゆっくり取っていくから」「美味しそうですね。みんな取りたいなぁ。了解、私の分取ってしまってから手伝いますね」

「ああ、ありがとう。慌てなくていいよ」

「はい」と返事して、つかさは、早速、もう誰も並んでいない料理を次から次に取りながら前へ進んだ。私には色の黒い外国人のスタッフが私の身体に気づいて付き添ってくれた。去年もこのリーダー的な青年が手伝ってくれたように思う。手伝ってくれるのは有難いが、実は、スタッフと一緒に歩きながら料理を前にして、その料理を取るか取らないか、量はどのくらいかを即決して、伝えないといけないので恥ずかしいし、照れ臭いのである。自分の好きな物を好きなだけというビュッフェスタイルの良いところ、自由な感じが奪われる気がする。しかし、せっかくの好意なので、最近では慣れて、申し出があれば、断らず、お願いするようにしている。後で、つかさが戻って来て二人で一緒に取った方が断然嬉しいに決まっているが、お願いする事にした。結局、つかさにさほど遅れず、色とりどりのデザート付き、ヨーグルトも付いてる和食の豪華朝ご飯が出来上がった。

「わあ、凄い」 スタッフがテーブルに置いた私の朝ご飯を見て、つかさが声を上げた。つかさは、パンで洋食風に仕上げていた。私たちは向かい合って座り、手を合わせて「いただきます」をして食べ始めた。つかさがちゃんと手を合わせた姿を見て、良い子で良かったと私は少し安心をした。

食事は、二人共あまり会話をすることもなく、黙々と食べた。時折「これ美味しい」とか「美味しいね」とか言うだけだった。全て食べ終わって再び「美味しかったね」と言い合って、ごちそうさまをした。

レストランを出る時、先程の色の黒いスタッフが、テイクアウト用のカップに入れたホットコーヒーを二人分渡してくれた。チェックアウトまでは、まだ時間があるからゆっくりしてくれということだろうと思うが、まだ、メキシコの話をしていなかった私たちにはありがたかった。コーヒー二つをつかさが持ち、私がエレベーターにカードキーをかざして、部屋まで戻った。


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