第6話 【 放送部 】


そうこうしながら時間は次の40分に入っていた。

「スポーツとか何かやってる?  放送部か。サッカーとか興味ある? サッカーの指導をしてる。クラブチームで 、嫁さんがチームの代表している。俺は、中学生担当だけど、総監督だから小学生も見たりすることもある」

「へえ、弟がサッカーしてますよ。試合観に行ったりしてた」

「そうなんだ。俺は、全然厳しくないよ。怒らないようにしてる。自分からやるまで待つようにしてる。最初の頃はよくガミガミ怒ってたけど、結局、自分で考えてやれるようにならないと何にもならないし、待っていればそのうち動きだす。その方が楽だし、楽しくやれる」

「そうですよね。怒られるのは嫌ですね」

「怒って欲しい子、構って欲しい症候群の子もいるけどね。結局、俺のことがみんな好きなんだなと最近思うこともあるんだよね」

杖を持った身体障害者のおじさんがサッカーを指導している。この半身麻痺の第一印象からのギャップで相手の興味を惹こうといういつもの作戦だが、つかさにそんなにびっくりした様子はなかった。スポーツなどやらない人には見えなかったのかもしれない。念のために杖をついてきたが、最近の身体の動きの上達の成果か、あまり違和感なしに受け入れてもらっていたらしい。

「あのね、Jリーグの元監督と知り合いでね。連絡とったりしてたんだけどね。中洲の俺が好きだった馴染みの子のね。弟がね。そのチームのシンガポール、 そのクラブは、シンガポールにもチームを持ってるんだけど、そこの選手だったんだよね。プロ選手だったんだよ。プロ選手だよ。普通、弟がそうだったら自慢するでしょう。でもその子ね。全然自慢しないんだよね」

「へえ、凄い。プロ選手なんですね。その中洲のお姉さん、美人なんですか? 誰に似てますか?」

つかさには、スポーツ選手より中洲のお姉さんの方が気になったようだ。

「うーん、みつきちゃんかな。可愛い」

「みつき、いいですね。写真ないんですか?」

「あるよ」

私は、中洲のあやかのインスタグラムの写真を見せた。

「ああ、美人」

確かにあやかは以前の可愛いから大人の美人の女へと変身しつつあった。つかさにはやや憧れ的存在に映ったかもしれない。

「彼女、自分探しの旅に出ると言って、最初ハワイに三カ月くらい住んでたんだけど、その後、宮古島に住んだり、今は香港へ行ってる。何をやってるんだろうね。どうしてそんなところで毎日贅沢ができてるのか分からない」

「へえ、ハワイいいな。私、海外行ったことありません」

中洲のキャバクラのお姉さんたちは簡単に海外行ってしまうが、つかさはまだ17歳。考えてみればそう簡単に海外へ遊びに行ける歳でもないし、アイスクリーム屋さんでバイトするぐらいでは行けないだろう。私は話題を少し変えてみることにした。

「海外は行った方がいいけどね。まだ無理かなあ? でもこんな仕事してたら直ぐに行けるようになるかもね。彼女、料理も作るよ。上手いみたい。動画もよく載せてる」

「ああ、料理、上手になりたいです。私も今、作ってます。チャーハンとか」

チャーハンか。可愛いやつだと思ったと同時にやはり若い。興味あるということは直ぐに手の込んだ料理も作るようになるんだろうなと思った。この辺は、料理も作るが、男の私には真似出来ないところだろう。

「俺も作るよ、 片手で。リハビリになるしね。こうなる前と比べるとかなりスピードが遅くなってるけど作る」

「へえ、どんなもの作りますか?」

「うーん、肉ジャガとか普通に作るけど、面倒なものは作らない。でも最近はオーブンレンジとかあるから楽勝だよね。作り方もネットで見れるし」

「そうですよね。オーブンレンジで簡単ですよね。お菓子とかも作りたいです」

「お菓子ね、 お菓子は難しいよね。分量間違えられないし、俺は作らない」

さすが女の子だなと思った。この辺も私には無理だ。

「はい、難しいですよね」

「本とか読む?」

私は、つかさに悪いなと思いつつ、また話を変えた。

「うーん、読みます。東野さんとかなら読みます」

「東野さんか、人気あるよね。俺は読んだことないけど」

本読むのか、しかも東野さん。私の小説を読んでくれる友だちからよく聞く作家である。この子は勉強が出来なくて学校へ行っていない訳ではないんだと思った。顔も賢そうである。

私は、自分のショートショートを読んでもらい、私の感覚を分かってくれるかどうか試してみることにした。追加した40分は私のものだ。

「俺は、あまり読まないけど、小説書いてるんよ」

「ええ、書いてるんですか。凄い」

「読んでみる?」



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