第3話【 17歳 】

「私、いくつに見えますか?」

「うーん、19かな?」

「17歳です」

「ええ、17なんだ。高校生?」

「はい、未成年なんで10時までしか仕事できません。私が帰っても他の人がいますけどね」

「他の人はもういい」 本当にその時には既に、綺麗な歯並びで微笑む、この瓜種顔で長い黒髪が綺麗なつかさの美貌と雰囲気の虜になっており、他の女の子と新たに話をする気にはなれなかった。

「あの、下で、なんで私を選んだんですか?」

「ああ、それは一番可愛かったから。伊東つかさって知ってる?  少し似てるよね」

「えぇ、知ってます。ありがとうございます」 

私がカツカレー屋を出た時、4,5人いた彼女たちを全員じっくり見た訳ではなく、チラッと全体を見ただけであったが一瞬でつかさを選び、その雰囲気に惹かれた。他の女の子たちがどんな顔をしていたかはよく分からないが 私が話しかけたこの子が可愛くて、とても良い雰囲気だった。他の子はどうでも良かったのである。そして改めてこの子を選んで良かったと思った。

「まだ三日目なの? 入ったばかり。その照れてるところがいいね」

「前は、サーティワン 、あっ、アイスクリーム屋さんね。でバイトしてたんだけど、店長と喧嘩しちゃって」

ふーん、可愛いけど、気は強いのかな。でもアイスクリーム屋さんか。きっとそのコスチュームも似合って可愛かっただろうなと思った。

「でもこのバイト楽しいし、続けると思います。先輩たちも優しいし。うーん、5月まではやってるかな」

「でも、10時までバイトして辛くない? 学校は、行ってるんやろ?」

「通信制です。最初は普通に都立の高校行ってたんだけど、態度が悪いって、進級出来なくなって、学校に留年の制度がないから自動的に退学させられちゃいました」

「そうなんだ。まあ、今は通信制もあるし、無理して普通の学校行かなくてもいろんな選択があるよね。知り合いの教え子も最初、県立の高校行ってたけど、合わなくて直ぐに通信制に移った。5月か、それまでに来れるかな。次来る時は、そうね・・・ 9月かな?」

つかさの5月までという言葉になんとか他の出張でもまた来れないかと思案してみたが、実際にはそれから新型コロナウィルスが猛威を振るい始め、とても出張どころではなくなった。

「東京へは、何をしに来たんですか?」

「学会の会合で来た。『がいし』って知ってる? 電柱とかで電線を支えている白いやつ。見たことある?」

「ああ、あります」

「あれを造って全国の電力会社に納めている。テレビ取材も工場に来たよ。ブラモって番組知ってる? ラモさん、急に工場へやって来た」

「ラモさん見たんですか?」

「うん、遠くから手を振ったけど、離れてたからか小さく見えた。俺は、アナウンサーの方が興味あったんだけどね。工場の人達にもあまり知らされてなくて急に来たからみんなビックリして舞い上がってたよ」

「へえ、凄いですね」

「芸能人とか興味ないの? 可愛いから女優になりたいとか思ったことない?  娘は女優学校通ってたよ。声優とかの練習もしてた」

「へえ、ああ、声優はやりたいと思ってました。放送部に入ってた」

「へえ、まだまだ今から挑戦すればいいやん。うちは、ADやりながらだったから仕事が忙しくて途中で辞めた。オーディションの誘いはずっと来てたらしいけど、仕事の空きが全然、合わなかったって。今、テレビ局にいる。もう28だしディレクターになってる。大変そうなんだけどね…… 別の局にいた時がいちばん大変だったって」 

私の悪い癖なのだが、若い子にも、ついつい娘と妻のこと自慢してしまう。相手に、特に女性には、先ず安心してもらうという意図もあるのだが、最近はこの癖は直さなければと思い始めている。自分がどうなのかを語れるようにならなければと。もちろん、自己の自慢話ばかりになったら更に嫌がられるのだろうが。

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