第38話 外科学・高難易度!フィラリアの手術

 フィラリア(犬糸状虫)という寄生虫がいます。

 蚊にチクッと刺されると、寄生虫の幼虫(0.3ミリ)が犬の体に入ります。

 寄生虫は血管の中で大きくなり、20センチくらいの成虫に大成長!見た目はタコ糸そっくり。

 彼らは最終的に、心臓の右側らへん(右心室、右心房、肺動脈)に住み着きます。そうすると、血液の流れが止まっちゃう。

 血液が止まったら、生きていけません。

 命に関わる、怖ーい犬の病気です。


 この病気、昔はよく見かけましたが、今は少なくなりました。

 飼い犬に、幼虫の駆虫薬を飲ませてあげる人が増えたからです。

「え、駆虫薬? バルサン的なの、わんちゃん大丈夫なの?」ってなります?

 大丈夫! 犬に害はありません。

 薬はキューブのお肉的な見た目です(錠剤もありますが、おやつタイプが人気)。

 体に悪さをするのは成虫。だから、幼虫のうちに撃退すれば病気にならないのです。

 駆虫薬で倒された幼虫は、小さいので自然と体の外に排出されます。

 ちゃんちゃん。


 でもたまに、フィラリアが成虫になって、病気になっちゃう犬もいます。

 虫が大きくなったら、駆虫薬は意味をなさない。心臓を詰まらせるのに、成虫の生死は関係ないからです。

 じゃあ、どうするか?

 ……物理的に虫を取り出すんです!


 この手術、「フィラリア吊り上げ術」といいます。

 首の血管から心臓まで器具を入れて、詰まった寄生虫を引きずり出します。

 もちろん、外から寄生虫は見えない。経験と手の感触だけで虫を掴みます。

 超・高難易度の手術!!

 これができる獣医師はわずか。

 日本の中でも、駆虫薬の普及率が低い地域(=フィラリアが流行している地域)に、ほんの一握りいるのみです。


 彼らは素晴らしい技術を持っていますが、口をそろえてこう言います。

「この手術をしなくて良い日が来ることを願っている。フィラリアは予防できるのだから」

 

 いつか、この手術が「過去のもの」になる日まで。彼らの奮闘は続く!

 


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