第31話 野生動物学・色の変わった白鳥
実は獣医師って、野生動物についてはほとんど習わずに学校を卒業します。
獣医学で主に扱うのは、人や社会に影響を及ぼす動物たち。つまり、家畜やペット、衛生動物です。
野生動物から伝染する病気もあるので、全く関係ないわけではないんですが、関わりは薄め。
「でも、やっぱり野生動物が好きなんだぁー!」って獣医師もいます。
そういう人は、野生動物を保護する施設に就職したり、自治体の「鳥獣保護員」になったりします。
知人の獣医師の話です。
彼は動物病院で働きながら、鳥獣保護員になり自治体に協力しています。
ある日、自治体の職員さんから一本の電話が。
「春になっても飛び立てない、色の変わった可哀想な白鳥がいます。怪我をしているかもしれないので保護しました。診察してくれませんか?」
白鳥は、冬は日本にいますが、春になったらシベリアに戻るはず。確かに変です。
病院に連れてこられた鳥を見て、彼は叫びました。
「おい、ガチョウじゃねーか!!」
しかも健康そのものです。飛べないのは、ガチョウなので当然。
ガチョウなことの、何が問題なのか?
それは、白鳥は野生動物ですが、ガチョウは家禽だということ。
野生動物は自然のものなので、もとの場所に帰せばいい。
でも、家禽は法律上、「人の持ち物」。どこかに置いてきたら、「遺棄」です。
誰かが、飼いきれなくなったガチョウを野に放ったんでしょうね。
と、いうことは。
……ガチョウは元の場所に戻せない!
自治体の職員さんと獣医師は、ガチョウを前に沈黙しました。ふたりの気持ちは同じ。
「え、誰がこのガチョウ引き取るの??」
……仕方なく、獣医師が善意で引き取りました。
しかしオスのガチョウ、卵を産みません。
しかも狂暴で人を襲い、朝早くから「ピギャーン!」とけたたましく鳴きます。
いやぁ、飼いにくいですね!!
でも、しばらく飼うと、それなりに可愛く見えるらしいから不思議。
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