第20話 解剖学・骨の変人ができるまで

 獣医大学に入って最初に習うのは基礎的な科目です。生理や解剖ですね。

 動物の正常な体の仕組みを知らないと、何が異常なのか、どう治せばいいのか分からない。基礎科目は、文字通り、全ての土台です。


 そんな大事な解剖学。

 座学の後は、ひたすらスケッチします。

「まさか、美大でもないのにこんなに絵を描くとは..」というくらい。半年の骨の授業だけで、ノート3冊はスケッチしました。

 絵心はなくていいんです。ただ、あるがままを紙に写すだけ。

 でもそれが難しい!

 人って、理解してないものは描き写せないんですよね~。

 例えば骨には、穴や溝があります。それらは全て、意味があって今の形になっています。神経が通る穴だったり、筋肉が付着する溝だったり。構造を理解して初めて、ちゃんと描き写せます。

 しかも、動物によって進化の方向が違うので、骨や臓器の特徴が違う。その違いと理由も学びます。

 完成したスケッチは教授に提出して、点数がつけられます。やっぱり、テキトーに描いたスケッチはバレる!

 悪友の点数はひどいもんでした。


 ちなみに私、スケッチによって、骨に魅せられてしまいました。

 あの曲線、繋ぎ目、凹凸に隠されている進化の秘密。ロマンです!


 新入社員の頃のことです。

 飲み会の席で、先輩に「趣味は何?」と聞かれたので、ウケを狙おうと「骨格標本を作ることですね~」と言ったことがあります。

 周囲のドン引きと言ったら、そりゃあすごいもんでした。

 そこで私は初めて、「そうか、骨はウケないんだ。私は世間的には変人なんだな!」と気づきました。


 なので、今は隠れて骨を愛でています。

 私の部屋には、山で拾った鹿の頭蓋骨が飾ってあります。

 ああ、今日も頭蓋骨の縫合線(骨と骨の繋ぎ目)がたまらん...!



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