第16話 公衆衛生学・毒キノコの誘惑

 人や動物に害のある植物も、獣医学で学びます。

 公務員獣医師になると、春には山菜、秋にはキノコを持ったおばちゃん達がやって来て、こう訊きます。

「ねぇねぇ、これって食べても平気~?多分平気だと思うんだけど」

 おばちゃん達の健康に直結するので、職員は必死に鑑別します。多分じゃ困るっ!


 今回はベニテングタケについて。

 真っ赤なカサに水玉模様、白い軸。ファンシーな姿のベニテングタケは、いかにも毒キノコっぽいです。

 ベニテングタケを食べると、ものの30分で消化器症状(嘔吐、下痢)や中枢神経症状(錯乱、幻覚、けいれん)が出ます。

 死んでしまうこともあるので、絶対に食べちゃだめです。

 ..けれど、一部のマニアは「美味しい」と食べちゃうそうです。

 それは、ベニテングタケの毒成分のひとつ、イボテン酸が旨味成分でもあるから。ダシが効いていて美味しいんだとか。


 知人の公務員獣医師の話です。

 彼の職場には度々キノコマニアが訪れ、いかにベニテングタケが美味しいかを語っていくのだそうです。

 数年ぶりに同窓会で会ったとき、彼は

「知ってる?ベニテングタケって超うまいんだって。ちょっとだけ、かじってみようかなぁ」

 と言いました。

 ...その場にいた全員で止めました。

 マニアの力が、学問の力を上回った。そう思った瞬間でした。

 マニアのプレゼン力、恐るべし。







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