激闘を眼下に収める観戦席に、俠侍郎達は居た。東ゲートの最前席、大枚はたいたSRチケット。ハインの粋な計らいだ。

「ああ……うわ……」

 剣戟の火花が散るたびに、アンリはうわ言めいた悲鳴を上げた。

「あんたがそわついてどうすんだよ、先生」

「そんなこと言ったって……」

 腕を組んで腰を落ち着けた俠侍郎へ、唇を尖らせる。彼女とて、荒事への免疫がないわけではない。混沌の海でフィールドワークへ従事する以上、降りかかる火の粉を払うだけの力と度胸は必要だ。だがそれは、あくまでも自衛へ留まるだけ。

 勝敗を決するために命を張る、そんな経験はたったの一度切りだ。

「万が一、重い傷を負ったらどうするの」

 なにしろ火花散らす槍も刀も、刃引きしていない真剣なのだ。

「だから、そのためにウェイダを担保に入れたんだろうが」

 ノラウェイダを担保にして、最上グレードの再生医療を受けられる段取りは整えた。余剰のクレジットは、すべて凪爪への賭け金へ。つまり万が一、凪爪が瀕死で敗れれば素寒貧。文無しの上に、このギャンブリラへ釘付けにされる。

「死にさえしなけりゃ命は拾える」

「死ななければ……?」信じられないという面持ちのアンリ。

「あの子はまだ十五だぞ」

 デガード、ギュインと歯軋りをひとつ。

「だからどうした。俺が帝都軍へ志願したのは、十四の春だ」

 当時、帝都軍志願兵の受け入れはヒューマン種だと十七から。幼い頃から上背のあった俠侍郎は、年齢を詐称した書類を用意して志願した。

「長命種は、これだからな。いいかよ、お前達が思うほどあいつはガキじゃねえんだ。腹を括って、あそこへ立ってる」

 鼻白む、デガードとアンリ。この男、一番適当なようでいて、最も凪爪を対等に見ていたわけだ。

「だったら俺達も肝据えて座ってるのが、ケジメだろ。気を揉んでる暇があるなら、歓声のひとつでも浴びせてやれよ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る