7
熱狂、歓声。その坩堝に、凪爪は居た。
円周上へ並ぶ客席に囲われた、土敷きの闘技場。上を見上げれば夜空はなく、天蓋が埋め尽くす全天候型ドーム。頭上を照らすのは、熱素発電がもたらす眩ゆい照明ばかりだ。
『さあ、お次は本日のメインカード、その一枚目をめくるとしよう!』
興奮冷めやらぬ実況の声。今宵、この場で繰り広げられた決闘は数えて四つ。どれも飛び入りの参加者か、下位の闘士達による前座だ。実況や歓声の声を聞くに、盛況だったとみえる。
あれから半月、ハインは宣言通り、凪爪の決闘カードを組んで来た。期待以上、一夜のメインを張る大役を取り付けて。
『まずは東ゲート。初出場で大一番、新進気鋭の大物ルーキー』
天蓋から吊るされた巨大モニターへ、凪爪の立ち姿が写し出された。なんとも言えない居心地の悪さに、腰へ帯びた
『ここに集まるフリークなら知らねえはずもねえ、
映像がズームアップ、倭刀の拵えを強調する。
『その正体は知る人ぞ知る倭克の剣士、
凪爪、ため息。ハインの肝入り、このタイミングで取るべき所作を、奴から散々に叩き込まれた。
鯉口を切る、しゃらり――と抜刀。銀光照り返して、白刃を翻す。エンタメ、ショーマンシップというやつらしい。歓声が膨れ上がる。
倭刀以上に、倭克の刀法は門外不出。ハインの後押しがあるとはいえ、戦歴のない凪爪がここまで注目を浴びているのも、そこに由縁がある。
『続いて西ゲート!』
凪爪と対峙する、ひとりの男。馬や鹿、有蹄類と類似した顔付きだが、少し面差しが柔らかい。カンガルーのザイル種だ。カンガルー最大の特徴、強靭な足腰と尾は鋼鉄に覆われている。
いや、剥き出しの骨格フレームでさえ鈍い鋼の色を帯びている。あの男はザイル種のサイボーグ、サイバネカンガルーだ。
『跳べ、飛べ、翔べ! 翼なくして空を舞う、この男、まごうことなき竜の化身。竜騎士、スケェイィルゥ!』
左手に、一本槍を携えるサイボーグザイル。その名はスケイル。ハインが凪爪を売り込むにあたって対戦相手に選んだ闘技場の闘士、その実力は推して知るべしだ。
「……気に入らんな」
ばさり――と槍の穂先、その根本へ結え付けたカーマイン染めの飾り布を翻す、スケイル。
「倭克の剣士が相手と聞いて参じてみれば、かような小娘が相手とは。ハインめ、俺を担いだのか」
「……好きに言え」
慣れないパフォーマンスに徹していた凪爪、ゆるりと白刃を構えた――青眼、切先で相対する者の眉間を付け狙う。
「侮るなら、その不遜ごと叩き斬るまでだ」
構えひとつを見て取って、スケイルは感嘆の息を漏らした。
「失敬した、前言を撤回する。相手に取って、不足はないらしい」
右手に抱える竜を模した仮面を装着して、竜騎士スケイルも槍を構えた。両足を前後の差なく揃えた、独特な姿勢。槍を携える左半身すら切らず、跳躍の予備動作に左右の足を揃えるカンガルーならではの槍法。
『さあて、両者用意が整った! ゴングを、鳴らせい!』
「いざ尋常に――」
長竿、ゆらりと。
「――勝負」
白刃、ぎらりと。
カン――と、ゴングが鳴り響く。
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