4th バッドウェイ・ドライブ
1
からからと、
ルーレット台のスツールへ腰掛けながら、辟易するのは音ばかりではなく臭いも同じ。紫煙に酒精、エチルアルコールとニコチンタール。臭気が、獣から継ぐ鋭敏な嗅覚へ突き刺さる。いや、ザイル種にも煙草や酒を好む者は居る。父は酒豪だった。母が嗜む程度に晩酌へ付き合っていたのを想い出す。
凪爪は下戸だ、舐めるだけでも酩酊する。ヤニの臭いも好まない。
隣へ座り、ブランデーのグラス片手に葉巻を蒸す牡鹿のザイルをちらりと横目に睨む。本人は何処吹く風で、鼻歌混じりにチップをベットする。
凪爪も、千クレジットチップを五枚ベット。アウトサイド、
「おい、凪爪」と牡鹿のザイル。
「なんだ、ハイン」
「つまらん賭け方をするな。ツキが逃げちまうぞ」
「知らん。わたしは、遊びに来たわけじゃない。賭け事なんか、どうでもいい」
「そいつは遊んじゃいけねえ理由には、ならねえよ。どうでもいいなら、楽しんでも損はない」
「わたしが考えるのは、事を仕損じないかどうかだけだ」
「馬鹿だね、お前は。もちろん物事の善し悪しを決めるのは、結果さな。だったら、過程を楽しまないでどうする」
過程を楽しむ?
「……そんな風に考えたことはない」
「そんなら今から考えな。そんな風にしかめっ面のままじゃ、悪目立ちする。この場に溶け込まなけりゃ、綺麗なべべ着たかいがないってもんだぜ」
「……それを言うな」
無意識に、ドレスの裾を掴む。そう、ドレスだ。今の凪爪は着慣れた戦装束ではなく、華やかなドレスで着飾っている。
わずかながら着物めいた装い。帯を腰に巻き、右手に振り袖こそ着いているが、左肩の毛皮を露出した
猫脚特有の長い踵すら人前で露出した事のない凪爪にとって、羞恥の極み。他の女性客と比べれば、ずいぶん控え目な露出なのだが、当人にとっては裸にされた気分だ。
「そういう顔がよくねえんだ、周りを見てみな。客はみいんな、自分を中心に世界が周ってるって面してるだろうが」
牡鹿、ブランデーを飲み干す
「中心に、周る……?」
「
通り掛かったウェイターを呼び止めて、追加のグラスを注文する。
「……酔っていないだろうな」
慣れない衣装で身を飾り、酒浸りの牡鹿からわかるようなわからないような説教を受ける。どうしてこんな境遇へ臨む羽目になったのか。これには少々、込み入った事情があった。
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