闇、薄く広がる。明かりといえば、円卓を囲う青褪めたホログラムの投影光ばかり。

「やあ諸君」

 都合三つ、実像のない人影を見渡す声。面差しを暗闇へ潜ませたまま手許だけが、蒼白い光へ浮かぶ。声調は、広がりのあるバリトン。大いなる野心を呑んだ理想家の獅子と、堅実に地を這い進む現実家な蛇を併せ持つ。

羅伝らでん教授」

 白衣姿のホログラム。初老のヒューマン種男だが、目許へ機械仕掛けの眼光。蜘蛛めいた八つの光学インプラントを移植した、サイボーグ。

 シワひとつない白衣に黒ずみ、酸化した返り血。洗い落とさず、勲章のように。研究へ打ち込むため、我が身へ機械化を施す合理性へ相反した、無用な狂気の副産物を飾る自己陶酔。人目はともあれ、鏡面を気に掛けるマッドサイエンティストという風情。

「ヴォルゲッツ軍曹」

 屈強頑強なシャーレ種。赤いケイ素質の眼光二つの双眸は、防毒マスクに似た凶相。

 体格は、平均的なシャーレ種と比べても頭抜けた巨漢。特に目立つのは、右の剛腕。度を越したサイバネ武装、隻腕だけでも要塞のような威容。軍服にこそ身を包んでいるが、兵士というには物々しい。百戦錬磨、一騎当千、万夫不当の傭兵という出立ち。

「ラブレス書記官」

 生身のエルフ種、妙齢の女。プラチナブロンドと思しき髪色に、寒色のメッシュ。シャーレ種と同様、軍服に身を包んでいるが雰囲気は文官という着こなし。

 ハーフリムの銀縁眼鏡に覆われた色素の薄い瞳は、ホログラム映像からその彩色を窺い知る事ができない。右眼の涙ボクロが強く印象に残る。知性と理性に色香のエッセンスを混ぜて女の形に捏ね上げた、魔性の美貌。一抹の寂寞せきばくを差し色に。

「それでは諸君」

 呼び掛ける声、そのかたわらに控える、もうひとつ生身の人影。腰へ帯びた得物だけが、ホログラム光へ浮かび上がる。独特の意匠を施された、刀の柄が。

「報告を」

『はい、特佐』

 ホログラムの人影達が、皆一様にそう応えた。

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