3
『おい、俠侍郎!』
無線機へ通信。昨日今日といい、相棒からこんな風に呼ばれてばかりだが、どうにも切羽詰まった様子だ。
『何処で道草を食っている!』
「なんだよ薮から棒に。今、街を発ったところだ」
『早くしろ! こちらは接客中だ!』
上客ではなさそうだ、招かれざる客というところか。タイミングからして、スキャラット。だが、銃声を劈いて余りあるこの咆哮はどうした事か。
「飛ばしてやるから、保たせろ」
『簡単に言ってくれる……!』
シャーレの歯軋り、背景で地響きが鳴る。相当な大物らしい。
「聞いた通りだ、飛ばすぜ」
無線機片手にハンドルを執り、アクセルを踏み込む。かたわらのアンリが頷く。いなや、彼女は冷や水でも浴びたように、ハッと身を強張らせた。
「避けて……!」
「……なにを?」
「ああもう……!」
怪訝な顔をする俠侍郎に痺れを切らし、アンリはハンドルへ飛び付いた。RVが左へ急旋回。
「おい……!」と慌てた俠侍郎が、無線機を車外へ落とすのもはばからずに、ハンドルを持ち直した。
大きく左へ逸れつつ、直進へ立て直す。接地しないRVだからよかったものの、有輪車なら横転している。
「なにしやがる……!」という罵倒は、瞬間に鉄クズと化した無線機を横目に、喉許で止まる。
水流。砂漠にあるまじき水の奔流が、無線機をネジと鉄片に変えたのだ。高圧、加えて流水へ混じった土砂。徹甲弾も同じの威力。
「止まって!」
目の当たりにした上で、疑問を挟む余地はない。迷わずブレーキを踏み込む。
空力ブレーキに加えて
間一髪、目前の砂面が隆起。地雷もかくやと、砂柱が噴き上がる。
「降りろ、先生」
魔法の襲撃。術者は、俠侍郎の
山勘だが、術者の目的は足止めだ。初撃の水流徹甲弾といい砂柱地雷といい、仕留めようとする仕掛け方ではなかった。
とりあえずここは従うが吉と、俠侍郎は抜銃したアグニを片手に砂地へ降り立つ。
「アンリ……」
砂塵、旋風。逆巻く砂埃が晴れると共に老骨がひとり、姿を現す。
「……バティスタ」
師の出現に、アンリは強い驚きには囚われなかった。何故ここまでという気持ちはあるが、やはりと腑に落ちる声が大きい。
「引き返せ。この先は、お前の道ではない」
「……ここに来て、またその話?」
「最後通告だ。道の選択を誤るな。困難な道がいつも正しいわけじゃない。考え直すんだ」
「よく考えた。最初から正しい道なんてない。だから、正しくあろうと迷うんでしょう?」
「……それが、君の答えか。ならばもう言葉は尽くすまい」
バティスタが、片眼鏡に提げた鎖へ触れる。鎖の半ばに取り付けた、真っ青な石が揺れる。水の
水滴がひとつ、滴り落ちる。とぷん――と足許の砂面へ拡がる、波紋。因子結晶が術者に豊富な魔法因子を供給する。
「たとえ力尽くでも、今度こそ私が止めてみせよう」
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