第2話 中

お姉ちゃんは、誰からも好かれる子供だった。


親からも。

友達からも。

男の子からも。


9年前。

お姉ちゃんが7歳、私が5歳の頃、私には気になっている男の子がいた。

拓也くんという、サッカーが上手で顔も良い子。


今から思えば、恋に恋している状態だったと自己分析できる。

当時、好きなアニメのイケメンのキャラに似ていたっていう理由だけで、恋という魅力的な遊びをする為の道具にしていた。


恋は、それはそれは楽しかった。

出しもしないラブレターを書いてみたり、友達と恋バナをしたりと、順調に「女の子」から「女子」に移行していった。


だから、拓也くんがお姉ちゃんに好意を寄せていることが面白くなかった。

半年の期間をかけて、そこそこ仲良くなり、やっとの思いで家に連れてくることができた。しかし、その日に限って、いつも外で走り回っているお姉ちゃんが家にいた。


「お。紗希の友達?」


人懐っこい笑顔を向けられて、拓也くんは目を逸らして無視をした。


「あれ。私、なんかやっちゃったかな」


顔を青くしてそう言うお姉ちゃんは、夢にも思っていないだろう。

自分が妹の男友達に惚れられたなんて。

\



8月31日。


お姉ちゃんの命日は、全ての学生が憂鬱にさせる日だった。


夏だというのに、雨が強かったのを覚えている。

夏休み最後の日だからと、そんな日でもお姉ちゃんは外に遊びにいった。


その日は、お母さんもお父さんも仕事でいなかったから、私が止めるべきだったんだ。

危ないから、今日は家にいようと。

家で一緒にゲームでもしようと、言えば良かった。

でも、拓也くんの件で理不尽な怒りを感じていた私は、止めなかった。


その上、お姉ちゃんにひどいことまで言ってしまった。


「紗希も外行こう!魔法使いごっこしようよ!」


無邪気な遊びの誘い。

邪気ゼロのその誘いに、私は怒鳴った。


「行くわけないでしょ!こんな雨の中に!馬鹿じゃないの!?」


お姉ちゃんは何も悪くない。

なのに、こんなことしか言えない私は、本当にどうしようもない。

そんな最低な私の罵声にお姉ちゃんは、「ごめんね……」と言って出ていった。


さすがに、帰ってきたら謝ろうとしたんだ。

でも、その機会は訪れなかった。

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