第8話 ロクでもない【瞬間移動】

あ、まずいこれ。

なにがまずいのかというと、【瞬間移動テレポート】した先に人と鉢合わせになってしまったことだ。

だ、だ、だ、大丈夫だ。こういうこともあろうかとしっかり変装してただの不審者にしか見えないようにしておいたのだ。作戦は成功なのだ。


「な、なんですか!いきなり現れて!?」


あっ、声を聞いて思い出したけどさっき揉めていた女の方じゃないか!


「しがないただの通りすがりの不審者です」

「な、なるほど。じゃあ問題はありませんね・・・・・・ってそんなわけあるか!」

「いや、そもそもダンジョン内は治外法権だから問題はないはずだ」

「黙れ、怪しいやつめ!とっ捕まえてやる!!」


そういった女は剣を抜き、構える。だめだこりゃ、聞く耳持たない。ってあ、思い出した、こいつ、このロングソード、赤髪ツインテールの戦士ウォーリアー控井うつい 左江さえだ!びゃーびゃーうるさい奴だからよく覚えている。ただ、今日はもいないし、ポニーテールにまとめていたから気付かなかった。片方ヘアゴム失くしたのかな?

――おわっ!こいついきなり切りかかってきやがった!


「危ないじゃないか!そんなものを振り回しちゃいけないってママに教えてもらわなかったのか!」

「安心してください、峰打みねうちで済むわ」

「いや今完全に横一文字で切りかかってきただろ!」


殺意が高すぎる、こいつ俺が言うのもなんだけどモンスターしか今まで相手にしてきたことがないだろ!相手は人だぞ、人!


「大丈夫!案外何とかなる!」

「アホか!そんなわけあるか!」


前にも似たようなことがあった。出会うや否やいきなり切りかかってきやがったんだ、まああの時はこいつの相方が止めに入ったから事なきを得たけど。

ていうよりこいつ、相方がいないと完全に暴れ放題だろ、一体何をしているんだ本当に!


「なんで避けられるのよ!」

「こんな攻撃、ラーメンみたいなもんだぜ」


そもそも俺には、【回避アヴォイド】というスキルが存在する。そして、あいつは一応これでもスキルを使ってきていない。ちょっと考えれば分かることだ、割と手加減はしているらしい。いや、どうだ、普通に切りかかってきているからそうでもないかもしれない。


「ますます怪しいわね、絶対に逃がしたりしないわ!」

「残念、お前とのお遊戯はこれでおしまいだ、【瞬間移動テレポート】!」

「あ、ちょ、待ちなさい!」


危ない危ない、あのまま居座っていたら捕まっていたかもしれない。なぜなら【回避アヴォイド】は通常攻撃、つまりはスキル以外の攻撃を自然に体が動いて避けるという常時発動型、つまりはパッシブスキルがある。そのおかげで前のスライムの攻撃やさっきの攻撃も効かないというわけだ。まあでも弱い相手に攻撃され続けるとダンスに夢中になっちゃうという欠点と、攻撃からのスキルで確定で攻撃がはいるという欠点もあるんだが。知能が高い敵はこれに気付いたりして厄介だったのは今では懐かしい。


「ォィ・・・・・・」


と、感傷に浸っているのもいいが、あのアホはおそらく俺を捕まえるために出入口で待機しているだろう、アホだから。だが俺はそんなアホとはちがう、そもそも俺には【浮遊フロート】や【瞬間移動テレポート】がある。これらを駆使すれば他の出入口から脱出することなんか容易だ。


「オイ!聞こえてんだろ!ドケよ!」


ただ、しばらくは回復を待とう。もう一つ試したいことを思いついたし。


「シタだ!シタ!わかってるだろ!ニンゲン!」


なんださっきから、幽霊が語りかけてきているのか?

まあ無視するか。


「さっさとどきやがれ!重たいんだよ!」


さっきからうるさいな、どけばいいんだろどけば。

俺がその場を立ち上がると、そこにいたのは幽霊なんかではなく、どう見てもモンスターの類いだった。


「ようやくドいたか、ニンゲン、キサマ、とっととドかんか!」

「・・・」


なんか小さくて若干デフォルメされたようなキモカワなモンスターが喋ってる。


「ナンだ、悪魔が珍しいか、そうだろうな、そりゃ悪魔だからな!」

「エー、キモ」

「おい!言葉を慎め、ニンゲン!」

「悪魔、ということはモンスター?それともトト□?」

「モンスター?ああ、アイツらのことか、違うな、オイラはレッキとした悪魔のインプだ!」

「ふーん」

「なんだ!もっと驚けや!悪魔だぞ悪魔!コワいんだぞ!」

「あっそう」

「ムキー!ようやく地上に出れたと思いきや、最初に会ったニンゲンがコレか!」


あんなことが起こった後だし、今更悪魔がいてもおかしくはないけど、でも今更なんだよなぁ・・・というよりあの時に現れたモンスターも悪魔の類いだし。


「驚かせたいならなんかやってみろよ」

「エッ、なんかッテ・・・」

「いいから早くやれよ」

「エッ・・・その、エッ・・・・・・」

「なにもできないなら悪魔名乗るなよ」

「ワ・・・・ァ・・・・・・」

「泣いちゃった、悪魔って泣くんだ」


悪魔なのにこんなに口論よわすぎじゃん、面白い、気に入った、ちょっと試したいことがまた増えた。


「【使役テイム】」

「・・・?オイ、キ、キサマ、ナ、何をした!」

「やっぱりモンスターの仲間なのか、今スキルを使ったらなんか成功したし」

「エッ?スキル?なんだソレは!?それに、契約もしてないのにキサマと何かツナガリを感じるぞ!」

「どうでもいいでしょ、そんなこと。それにしても、あんまり強そうじゃないな、失敗だったかも」

「ナ、ナンダと!強そうじゃないとはナンダ!強そうじゃないとは!」


あ、そうだ!モンスターなら【鑑定アプレイザル】が効くじゃん!

鑑定アプレイザル】・・・・・・あれ、効かない。やっぱモンスターじゃないのか?


「オマエ、またなんかシタだろ!これ以上何をするんだ!」

「何って、なんでもいいじゃん。というわけで今日から宜しくね」

「ヨロシクって、なにがヨロシクだ!」


あ、そうだ!面白そうなスキルがもう一つあった、ついでにこいつの使い道にもなりそうだし!


「【MP吸収マジックドレイン】」

「アバババババ」


ふむふむ、ステータスを見たところ自動回復分も考慮してもMPは5しか回復していない。いい感じの魔力タンクとして使おうと思ったのにこれすら使えないのか。


「アー!キ、キ、キサマーー!何をシタ!」

「さっきから何をした何をしたってそれしか言えないのか?あとこれからは俺のことをマスターまたは総帥と呼びたまえ!」

「ハッ!ワかりました、マスター総帥!」

「やけに素直だな」

「イ、イヤ、今のは口が勝手に・・・」


なんかちょっとだけ可哀想な気もしてきたかもしれない、あまりにも弱すぎて。

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