第一原住民との遭遇

「醤油が欲しい」


 空腹には勝てなかったよ。生えていたキノコ御立派ぁ!をもぎ取って、食すことにいたしました。火? 起こせるかと思って「ファイヤ!」とか「メラ!」とか色々叫んだけど出なかったよ? だからナマ食。煙草は吸わないのでライターとか持ってないし。


――引っこ抜いた時に凄い事件性を感じる悲鳴があがった時は心臓が止まるかと思った。あの声どっから出てたんだ?

 後木とキノコ御立派ァ!から真っ赤な液体が流れたんだけど、流石異世界ファンタジー

 味はまぁ、キノコって感じ。不味くは無い。美味いかというと微妙だけど。ちょっと生臭い感じがするが気にしない事に。気にしすぎると股間がヒュンってするから。

 多少なりとも空腹は紛らわす事が出来たので、どうするかを考える。さっきよりかはまともに物を考えられる、気がする。


「まてよ? そういや……召喚ってパターンもあるのか?」


 ふと、この異世界転移という状況についてを考えてみる。

 何故この世界――少なくともこんなキノコ生えた木は日本には無いと思うので、別のところに俺が転移したのか。この世界の誰かが召喚した、というのもある話ではないか?

 そういう場合不完全な召喚だったりとかで、チートが無いとかあるかもしれない。その場合主人公待った無しだ。後で何か能力スキルとか覚醒するに違いない。

――役立たず扱いされて追放されて、更に酷い目に遭うパターンもあるが、そこは考えない様にしよう。悪い事は考えない。いいね、俺?

 ほ、ほら、それに召喚だったら近くに呼び出した召喚士が居るかもしれないし? それか不手際があって呼び出した場所間違えて探しに来るかもしれないし?

 超希望的観測あまりに都合の良すぎる考えではあるが、そうでも思わないとやってられない。いきなりポイだぞ? 希望が無くちゃやってらんねぇ。

 そうと決まれば、周囲を探してみよう。立ち上がり、第六感何となく勘を働かせて歩き始める。足取りは軽い。体力は少しばかり回復していた。さっきのキノコ御立派様が効いたのかな?

 前向きに物事を考えられるようになったせいか、鼻歌でも歌いたくなるくらい気分が良い。日差しはある程度あるが、転移前コミケ会場に比べれば暑さは雲泥。気持ちいい位だ。キノコは所々見かけるが、見なかったことにしよう。


――どのくらい歩いたか。自分としてはまっすぐ歩いているが、全く変わらない景色に段々と不安が出てくる。


「……本当に、誰かいるのか?」


 思わず呟くが、返事を返してくれる奴は――と思った時だった。

 近くの草むらに、ガサガサと音がする。背の高い草の向こう側、かき分ける様にして誰かがこっちに向かって来ているようだ。


「……やった」


 涙が出そうだった。歩き続けて大体10分。誰かに漸く会えると思うと、嬉しくて泣きたくなってくる。

 その草むらに駆け寄ろうとした時、かき分けていた奴が姿を現した。


――下半身を汚い布で隠して、手に錆びているわ刃こぼれしているわボロボロの刃物を持った、小さな人形の生物ナマモノだった。

 あー、こういうの見た事あるわ。確かゴブリンっていうの。


――第一初めての原住民モンスターとの遭遇エンカウントは、ゴブリンとでした。


 こういうね! お約束いきなりモンスターとの遭遇とかはね! いらないのよ!

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