第17話
ベルガモットと、ペリドット、そして龍の子。
サイモンが龍の子を抱き、私はベルガモットとペリドットの前に立った。
「アミュレットを、」
そう言って両手を差し出すと、そこにベルガモットとペリドットが手をかざした。
私の手のひらを器として、二人の力がそそがれる。
イメージが降ってくる。
どこまでも自由で、どこまでも力強い。
大空を果てしなく渡っていくもの。
草原を吹き抜け、緑の香りを運ぶ、風。
「風龍セイラン」
私の声に応えて龍の子が高く鳴いた。
器の中が一際強く発光し、その光は徐々に引いていった。
私の手のひらには、緑の風を閉じ込めたような、小さな珠が乗っていた。
「おいで、」
私はそれを捧げ持ち、龍の子へと渡した。
風のアミュレットは再び光を放ち始め、その光は龍の子を包み込む。
「懐かしい感じがします。先程の光にも似ていますが、一番似ていると思うのは、あなたがあの水晶玉に触れたときに感じた光」
「そう、なんだ」
今でもそれが自分がしたことだという自覚は薄いけれど、それはサイモンがこの世界に安定するきっかけを作った光。
それならきっと成功する。
そう思っていると、光の中から淡い緑色の翼が大きく立ち上がった。
まるでアミュレットの光を新しい卵とするように、龍の子は風の龍として成体になった。
「風の龍はわれらの世界と人間の世界の懸け橋になる。かのものは世界を渡る旅に出る。風に境界線がないように、かのものはどこまでも自由だ」
水晶の精が呪文のように言葉を紡ぐと、ドームが開くように景色が割れ、私たちは外の空間へ移動した。
風の龍は高く鳴いて、朝焼けの空へと飛んで行った。
「もう、帰ってこないの?」
ベルガモットがさみしそうにつぶやく。
「帰ってくるわよ。たくさんのお土産話を持ってね」
何故かわからないけれどそんな気がした。
無事に帰り来たれと柳の枝に願いを込めたのは、いつの風習だったか。
緑の風は季節を運び、いずれまた巡り来るもの。
制限なく世界をめぐる、自由な翼。
私たちは昇ってくる朝日を浴びながら、いつまでもその風に吹かれていた。
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