第16話
私たちを包んでいた光はゆっくりと収まり、サイモンの姿がはっきりと見えてきた。
サイモンのはがれた鱗はきれいに整えられ、裂けた口も元に戻り、異常に伸びた牙も元の長さに戻っている。
全体的に整えられたような雰囲気があって、以前よりも一層綺麗になったような気さえした。
サイモンも自分の手足を確認するように眺めている。
「シア、」
ふいに呼ばれ、見つめていたのがばれたのかと少し慌てた。
「僕はこのままで、良いのでしょうか」
「どういうこと?」
サイモンに言われたことの意味が分からず、私は首を傾げた。
「シアは、僕がこちらの世界に引っ張ってきてしまったようなものです。半ば強引に、あるいは、シアの命を盾にして、こちらの事情に巻き込んだとも言えます。こちらに、人間の姿で一人居るのは苦痛ではないですか?シアは、優しいから、」
サイモンに以前言われた、人間を取り巻く光の話を思い出した。
「優しいから?」
私はサイモンのセリフを少し強めの口調で繰り返した。
サイモンがはっとなって振り返る。
目に脅えがある。
怒らせた、と、思ったみたいだ。
実際、少しは怒っている。
けれど、こんなものは今まで私が経験した怒りとは全然違う。
こんな甘い苛立ちを、私は今まで知らなかった。
「優しいから、我慢して自分を犠牲にしてる、と、思ってる?」
「はい」
「だから、今度は自分が人間の姿になって私に寄り添わなきゃいけない、って?」
「シアが、そう望めば出来るはずです。今だって」
そのチャンスだった、とでも言いたげだった。
確かにそうなのかもしれないけれど、
「馬鹿ね」
マスターがきっかけをくれなければ、きっと私は死んでいた。
それは、寿命を迎えての静かな死ではなかっただろう。
あいつを恨んで、世界を憎んで、祟りを起こすような怨霊にだってなっていた。
そうなっても、かまわないと思っていた。
そんな私に延命なんて、そもそも交換条件にすらならない。
生きていたいと思わなければ、死は脅しにもならない。
それが脅しになるのはむしろ、今だ。
「私は、ここが好き。ここに生きているみんなが好き。好きだと思えば努力する。そうしたいと思ってそうする。それが本物だと思う。私は生来、本物しかいらないの」
そう言うと、ダイヤの精がふっと笑った。
「シアは、ここに合っている。ここには偽物はない。本物だけが存在できる国だ」
「ありがとう」
私はきっと今、心の底から微笑んでいる。
そう思えるのは、今、目の前にいるみんなが、本物の笑顔を見せてくれているから。
「サイモン、私をここへ呼んでくれてありがとう。私は私の意志で、私の役割を喜んで果たすわ」
それに、と、私は続けた。
「私は龍が大好きなの」
少し声が震えてしまったけれど、サイモンが照れながら穏やかに微笑んでいるのが私にもわかった。
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