第12話
やがて道は私たちを運ぶのを止め、どうやら地面だと思われる場所に立った。
辺りの様相は特に変化はない。
相変わらず星空の中に立っているようだ。
「コンニチハ」
小さな声がして目を向けると、そこに小さな黄緑色の髪をした妖精が立っていた。
ベルガモットによく似ている、と思っていたら、当の本人が素早く動いた。
「こんにちは!君が水晶の精霊?」
近づいて手を握り、そう聞くと、若葉の君ははにかんだ。
「ナイショ」
そう言って細い人差し指を唇に当てる。
「植物の精霊や龍がくるっていうから、面白そう、って思って来てみたの」
あとは、と、言って、私の側に寄ってきた。
暗くてよく分からないが、足場があるのだろうか。
若葉の君が飛び跳ねるたび、その足元が仄かに発光し、私の顔を覗き込める高さまで来た。
「ニンゲン!」
そう言って無邪気に笑う。
好奇心だけで動くとは、こういうことを言うのだろうか。
見た目は子供だけれど、例によって私よりずっと年上と思う。
が、行動パターンは子供のようだと思った。
それも、とても大切なことだと知っているけれど。
私は、それをずっと胸の内で抑えたままだった。
誰かのために、何かを優先して、自分のことはずっと後回し。
知りたいことも、やりたいことも、行きたいところも、全部。
そうやって生きてきて、結果、その分だけの対価は支払われたのか。
哀しいと感じたのも、悔しさを覚えたのも、そういう気持ちが原因の一つには違いない。
(今も?)
ふと、そんな気持ちが胸をかすめた。
私は無意識に目の前で楽しそうにはしゃぐ2人の精霊をじっと見つめていた。
「シア?」
サイモンが怪訝そうな顔をしている。
何か不穏な顔をしてしまっていただろうか。
「ううん、何でもない」
胸元に隠れていた龍の子がきゅうんと不安そうな声をあげる。
「大丈夫、」
どちらへ言ったのか、定かではないけれど、私はつい、いつものセリフを吐いた。
そうでないときの方がよくつかわれる、その言葉。
「シア、無理はしないでくださいね。辛いときは、辛いでいいです。体が生まれ変わっても、心はまだ、ついてこないでしょう?無理に笑わないでください。たとえそれが、僕らを安心させようとしてのことだとしても。僕らは、確かにこの子を助けたいと思っていますし、あなたに協力してほしいと思っています。けれど、」
サイモンがそういうと、ベルガモット達も私のもとへ戻ってきた。
「一緒に、あなたの傷も、癒せればと願っています」
サイモンの言葉に、皆が頷いた。
当の救済対象である龍の子まで。
「ありがとう、」
本当はもっとたくさん言いたいことがあった。
けれど、言葉にできたのはそれだけだった。
私が素直に泣けるようになるには、もう少し、時間が必要なのだろう。
それすらも、彼らは受け入れてくれると、信じている自分がいた。
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