第7話
「何故です?」
自分でも眉間にしわが寄ったのが分かる。
酷い顔をしている。
「サイモンが花嫁を迎えることが、この子を救うための条件なのだとしても、何故私ですか?」
「不服かの?」
ジョカに言われて私ははっとした。
恐る恐る目線をサイモンに向ける。
サイモンはどこか悲しそうな眼をしているが何も言わない。
手も外さない。
私は大きく一つ息をした。
冷静になるために。
「不服とか、そういう問題ではないです。むしろ、私はその役割を担うには不適任だと」
「何故」
今度は私が理由を問われた。
「一つは年齢。数字では龍の年代と合わないと思いますが、種としての肉体は老化しています。それどころか、」
私は一度、言い淀んだ。
ジョカは私の事情をどうやら知っている様子だけれど、果たしてベルガモットや龍の子はそれを聞いても大丈夫だろうか。
傷つけはしまいか。
サイモンは?
そう思って、ふと気が付いた。
ここで出会ったみんなを、私は、私の命を惜しんでくれる存在と認識している。
「あなたの事情は分かっています」
サイモンがそっとささやいた。
「そもそも、僕と婚姻を結ぶことによってそうしていただくことによって、あなたの力をお借りすることができるようになります。あなたの事情が解決するのはむしろ副産物と考えてください」
もちろん、と、サイモンが続けた。
「僕にとっては、その副産物もとても重要です」
それはそうだ。
私は少し考えて、サイモンの方を向き直った。
「私を望んだのは、あなた?」
「そう、であるとも言えます。けれど、それだけではありません。あなたは、この世界そのものに望まれています」
でも、と言ってサイモンは少し言いづらそうに咳払いした。
あのマスターに似た、優雅な手の動きで私に向かって礼を取り、手を差し出した。
「どうか、僕の花嫁となって、僕と生き直してください」
「私を死に損なわせた責を負ってでも?」
「はい。僕の命をかけて僕が負います」
それは、私が人間界で放棄されたものだ。
命の、責任。
「バカね」
本当に背負って欲しかったわけじゃない。
ただ、ここはあの場所とは違うのだと、二度目の婚姻は、確かに、誠意と真心を持って結ばれるものであると、信じたかっただけだ。
一度は愛され、守られると信じて交わした契約が最悪の形で反故にされたから。
世界を変えても、生き直すと誓っても、心に深く刻まれた傷は、すぐには治らない。
けれど、ここでなら、癒していくことはできそうだと思えた。
「こちらへ来た時から、私はあなたと生き直すことが決まっていたのだと思う」
マスターがくれた、きっかけ。
私はそっとサイモンの手に自分の手を重ねた。
「よろしくお願いします」
サイモンの手は、ほんのりと冷たくて、明らかに異種族のものではあったけれど、人によって翻弄され、人によって心身ともに傷ついた私が生き直すには、どうあってもこの手が、必要だと思った。
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