第4話

ベルガモットの説明でいくつかの事が分かった。

この世界には龍と精霊が住んでいる、人間の世界とは薄い壁一枚隔てた世界だという。

精霊は本体があり、そこから生まれる。

龍は自然界から生まれ、最初は精神体で存在し、ある程度時がたつと大人になる。

肉体を持ち、存在が安定する、ということらしい。

けれど、いつのころからか、精神体の龍は生まれてきても、大人に成れずに消えてしまうようになったらしい。

その原因は今でも分からないままで、精神体として生まれて来る龍の数も減ってしまったという。

「今、ボクが把握してる龍の子はこの子だけだよ」

そう言ってベルガモットはそっと龍の子の体に触れた。

すると、私が触った時みたいに小さな火花のようなきらめきが起き、龍の子は嬉しそうに鳴いた。

「ボクができるのはせいぜいこのくらい。少しだけ、彼が消えるのを先延ばしにすることだけ」

私はじっと自分の手を見た。

自分が触れた時も同じことが起きているということは、自分もそれに少しでも貢献できるのだろうかと思った。

それでも、微々たるものに違いはないのかもしれないけれど。

「少しでも手助けができる、ってことは、影響できるってことだし、何か、この子を大人にできるヒントにはなりそうね。まぁ、同じ世界で生きているんだから、全く影響しないってこともないのでしょうけど」

ベルガモットの話によると、龍と精霊は基本的に干渉しない暗黙のルールみたいなものがあるということだった。

だから今まで原因にもたどり着けなかった。

他の精霊たちも、龍の子が消えるなら消えるでそれもまた運命と思っている節がどこかにあって、誰も気に留めないのだという。

そう考えれば、このベルガモットは特殊なのかもしれないと私は思った。

「私に何かできる?」

何ができるかはわからない。

けれど、今ここに私がいることも、ベルガモットのような精霊が現れたことも、事態を好転させる兆しではないかと思えた。

そこに可能性が少しでもあるなら、やってみる価値はある。

そう、思った時、胸が痛んだ。

それを、無駄だと言われた過去を持っている。

そう。

長い間そう言われて行動も、思いも制限され、否定されてきた。

それは、自分の命に関しても、だ。

望み薄なら諦めろと。

家族に迷惑をかけるくらいなら死んでほしい。

けれど、それをすれば自分の責任になる。

それは嫌だから。

出て行けと。

要は、そういうことだ。

だからこそ。

そういう扱いを受けたからこそ、生き直す先はそう言う世界であってほしくない。

できることがあるなら、しよう。

「ありますよ」

もう一度問いかけようとしたとき、背後から声がした。

それは、今までに聞いたことがないような、それでいてどこか懐かしい声だった。

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