地蔵が魅せる夢

崖っぷち受験生

あの地蔵は夢を魅せてくれる。

「晴翔。お前今年も地蔵盆行くんか。」

中2の夏。2週間前に比べると蝉も少し落ち着いたように思える季節。

爺ちゃんが俺に言ってきた。


「地蔵には触っちゃいかんぞ。祟られてまうからな。」

「わーってるって爺ちゃん。小1から毎年言われてるんだから。」


俺の住んでいる地域はお盆の季節になると地蔵盆が開かれる。

年寄りが多いイメージだが、そうでもなく、子供も結構多い。

それは多分、地蔵盆が終わった後にもらえるお菓子の詰め合わせの効果だろう。

そして、俺はそのお菓子を欲しがっている友達の尊に誘われ、毎年のように参加してる。


「わかってるんならええんや。最近は外が暑すぎるから倒れんようにな。」

「はいはーい。行ってくるわー。」


俺は爺ちゃんと母さんと住んでいる。

父さんは俺が小2の時に他界した。理由は教えてもらっていない。

なんで死んだのか聞くと、母さんはめっちゃ顔色を悪くするから何も聞けなかった。


地蔵盆が始まるのは午前11時から。

俺は10時55分に集合場所に着いた。


「おっ、晴翔もやっと来たやん。」

「よっす。あれ、美波もおるやん。」

「あっ、晴翔くん、おはよう。私も誘われてーん。」

「お菓子の量増やすために誘ってきましたー!」


図々しいヤツだ。そう思う人もいるやろう。ただ、コイツはそんなんじゃない。

コイツの家は複雑で、母親と弟と三人暮らし。父親は借金に追われ、蒸発。

母親はホストやパチンコに明け暮れ、尊や弟は飯が食えないことが多々あるらしい。児童相談所に言えばいいんじゃないかって思ったこともあるけど、コイツも何か考えているのかもしれない。だとしたら、俺は何か言える立場にはないと思う。


「おっ、始まったで〜。」

「あっ、ほんまやね。」

「ちょちょ、お前らー。はい。」


俺は2人にスポーツドリンクを渡す。


「今日結構暑いやろ。お前らに倒れられたら困んねん。」

「え、いいんか?」

「私のも?」


尊と美波が聞いてくる。


「ええねん。美波のも予備で買ってきてたやつやし。ほんで、はい。尊、弟の分もあるから帰ったら渡したれ。」

「そんなんええて。貰えへんわ。」

「ええって言うてるやろ。人の厚意には甘えるもんやろ。」

「すまんなぁ。ありがとう。」







午後5時、地蔵盆が終わった。地蔵盆自体は、12時で終わったのだが、13時から地域のミニ夏祭りのようなものがあり、それにも行っていたので、帰るのは5時になった。

「いやー。疲れたなぁー。暑かったし。」

「そやなぁ。最後は遊びやったけどなー。」

「うんうん。」


などと話しながら帰っていると、美波が立ち止まった。


「美波?どしたん?」

「今思い出してんけどさ、あの地蔵な、触ったらなんかあるらしいで。」


俺は少し驚いた。触ってはいけないと言われている地蔵だ。多分悪いことだろう。


「なんかってなんやねん。しょーもない話なんかしてんと、帰ろうや。」


そう言って俺は、自然な形で地蔵に行かないようにしたが、2人は行きたがった。


「えぇ〜。いいやん。やってみたいねん。なあ尊。行ってみたいよな?」

「うーん。まぁ興味がないって言ったら嘘になるけど。」

「ほら、尊もこう言ってるんやし行こうや。お願い!」

「えー。じゃあ行くだけな。」

「やった!」


美波に結構な勢いでお願いされ、俺は渋々ついて行くことになった。


「結構普通やな。」

と美波がいう。


「そりゃ、まだ5時やしな。」

と言いながら、尊は少し怯えているように見える。


「そっかぁ。もっと雰囲気があったら面白かったのにー。」


そして俺たちは地蔵の前に来た。


「なーなー。折角来たんやし、もう触っちゃおうや。」

美波がとんでもないことを言う。


「絶対やめといた方がいいって。実は爺ちゃんから聞いたんやけど、ここの地蔵って触ったら祟られるらしいねん。だからやめとこうや。」

俺は少し怖かった。ただ、それと同時に興味も沸いた。触ったら何が起こるのか。


「大丈夫やって。そんなん迷信やろ。私触るからなー。」

そうして、美波は地蔵を触ってしまった。



______________________








長かったので、2話に分けます。すいません。

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