地蔵が魅せてくれた夢

美波は地蔵に触れてしまった。

「っ!!」

俺は身構えた。地蔵から手か何かが生えてくると思ったからだ。

すると。





いや、しかし。何も起きなかった。

手が生えてくるわけでもなく、どこかに吸い込まれるわけでもなく。

ただ、何か変化があったとすれば、その場が静寂に包まれた。いや、その場からように思えた。

しかし、10秒もすれば、あの忌々しい蝉の声が聞こえた。


「なんもなかったやん。ちょっとびっくりしたわー。」

美波が少しほっとした様子で言う。


「じゃあ折角やし俺も触ろうかなー」

尊がふざけて言う。

そして、触った。また何も起こらなかった。


「晴翔ーお前だけだぞー」

尊に催促され、晴翔はちょん、と地蔵の頭に触れる。

例の如く、何も起こらなかった。


正直本気で怖かった。死ぬんじゃないか、なんて考えたこともある。

ただ、それは杞憂に終わったようだ。



_______________________


あれから6年。俺は大学生になり、念願の一人暮らしを始めた。彼女もでき、大学生活はとても楽しかった。そして、結局は祟りなんて物は無かったようだ。美波ご言った通り、迷信だったみたいだ。

ただ、爺ちゃんが死に際に放った言葉が少し気になった。


『あの地蔵は触ったらいかん。夢を魅せられる。』


あれは果たして何だったのだろうか。



「実家、帰ろうかな。」

ふと思った。


すると。

『ピコンっ』


尊からメールが一通。


『近々地元に帰ろうと思うんやけど、晴翔最近忙しい?久しぶりに会いたいんやけど、どう?』


ベストタイミングだな、そう思った。


『俺もそろそろ帰ろうと思ってたとこ。じゃあ今月の20日でええか?』

そう送った。20日は3日後。少しだけ帰省の準備をしていてもいいかもしれない。


『おう、ええぞ。家着いたら教えて。迎えに行くから。』

尊からのメールに、俺は


『りょーかい。』

とだけ送って少しだけ準備をしてから眠った。





「おっすー。元気してた?お前また背伸びたなぁ。せこいわー。」

尊が迎えにきた。

「はいはい。で?どこ行くん?って美波もおるんか。」

6年前のように俺の知らないところで美波も誘われていたようだ。

「そやでー。っていうかあの地蔵見に行かへん?」


「急やな。でもちょい気になるかも。」


?話の展開が急すぎないか?と少し疑問に思ったが

「まぁ、いいけど。」

ノリでOKした。




「うっわー。変わってへんなぁ。」

「ほんまやねー。」

尊と美波が話しているのを聞きながら変わってないな、と思う。



と、その瞬間。

目の前が真っ暗になった。


そして、ボワーンと何かの光景が映った。


『尊、地蔵には近づいちゃならんぞ。』

じいちゃんだ。

『わーってるよ。でも、なんでなん?』

『あの地蔵は厄介でな。夢を魅せるんじゃ。幸せな夢を。』

『?いいじゃねえか。』

『そこまではいいんじゃけど、あの地蔵はなぁ。人の夢を喰って幸せな夢を見せた後、地蔵に近づかせ、今までの幸せな夢を喰うんじゃよ。』


俺は理解した。じいちゃんの言葉と、今の俺の状況で。


わかった。そうだ。そうだったんだ。

俺は、いや、俺たち三人は。


地蔵に夢を魅せられていたんだ。そして、今までの記憶を喰って地蔵は生きる。

俺は死ぬ。



ここの地蔵は夢を魅せるんだ。

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