第8話 乙女のお弁当

玉子はお腹が空いてきた。

時計は一時半。


ムスメもムコも仕事。

孫は学校だ。


「くさくさしやがる。

タツの店に行くべーー。

おみよも呼ぼうっとせ。」


着替えてパンチパーマを念入りにわんわんに盛り上がる。

「やっぱ、これだよなー。」

お気に入りのジーパンに長袖のTシャツと革ジャン。

ペタンコ靴の踵を踏んで、出かけようとしたら

ピンポーン!


「だれでい?出かけによぅ。」

玉子は思い切りドアを開けた。


ガツンと音がした。


「んぎゃー。」

声の主は天野しすぐだった。


「あー、お前、雨もり、、。

何しにきやがった?」


「おっおったまげーがやゃすんでるって

ききっ聞いたので、来ました。」


「あたいはお玉。まっ、どーでもいいか。

わりぃけどよ、今からタツの店で飯食うんだ。」


「あっあっあっーーわわわ。

そっそっれっは失礼しました。」


「おい!雨もり、お前も来な。」


「え〜え〜。いっいーいんですかぁー?」


(全く、変な喋り方するガキだぜ。

どこか悪いんじゃねぇか?

わざわざ来てくれたのに手ぶらで返すなんざ仁義にはずれちまあ。)


お玉は柄悪く巾着袋を振り回して歩く。

その背後からいたって真面目な女子高生が小ネズミみたいについている。


周りの人達は振り返り、

(なんでしょ?悪い人に連れ去られるじゃない?)

(こっえー、ババだしな、関わりたくない、

知らんぷりしよう。)

なんぞを心の中で思いながら、遠巻きに去って行った。


「おーーい‼️タツーー‼️」


「うっせえ❗️デカい声出すんじゃねえ。

こちとら仕込みで忙しいんだ。

くだばれ、お玉!!」


「てめぇ、寝しょんべんたれの癖に

偉そうな口叩くじゃねぇか?」


「お前こそ、給食残して、泣きながら給食室の

おばさんに謝りに行ってた癖によぅー。」


「どんだけ、昔の話してやがる。

やんのかーー?」


その時、タツは真面目か?の女子高生に気がついた。

「おい、お玉、座敷わらしがついてるぞ。」


「なに!座敷わらしがぁー。どこにいるんだい?」

玉子はあちこち探す。


「お玉、お前には見えねぇのか?

ほら、お前の背後に立ってんじゃねぇか。」


玉子は振り返り、

「タツよー。老眼鏡をかけやがれ。

こいつは雨もりだよ。

学校の二年のアマだよう。」


「なんだってぇー!お玉に友達ができたのかー?しかも、お前とは月と噛みつき亀じゃねぇか?」


「ちっ、るせぇなぁ。

タツ、飯だ、飯。食わせろや。」


「おう、残飯飯でいいな。

そいで、雨もりちゃんは?何食いたい?」


「わっわっわたしは、お弁当がありまするぅーーぅー。」


「雨もり、弁当って学校で食わなかったのか?」

たんちん玉子もいい所に気がつく。


「あのその、そのその、、。

きょょうは、おトイレが修理で、、。」


「なんだ?弁当食うと便所に行きたくなるのか?」


タツはピーンときた。

「お玉、便所飯ってやつだろうよ。

最近じゃあよ、陰険なイジメがあってよ。

教室で弁当食えねぇ奴がいるってさ。

仕方ねぇから、ひとりで便所で弁当食うんだとよ。」


「なーにー⁉️

便所はタバコを吸う場所だろがー。」


「お玉、お前は本当にバカなんだな。

俺はかわいそうになってきたぞ。」

タツは、どの年齢で玉子の知恵が止まってしまったんだろうと悲しみを感じた。


「雨もり〜、弁当見せてくれよー。

なぁ、なぁー。」


「はっはい!」


天野しずくのお弁当は

ハムがお花のように巻いてあり、真ん中にはプチトマト。肉団子はかわいい串で刺してある。

玉子焼きも中に赤や黄色の野菜が混ぜ込んである。きんぴらごぼうも照りがあって輝いていた。

ご飯には、ふりかけ。


「すっげぇーー。

乙女弁当だ。いいな、いいな。

雨もり、弁当くれ!

その代わりにタツが作った飯やるからよ。」


「いっいっいーですはんそん。」


「ならよ、タツ特製の餃子と天津飯をご馳走するぜ。まっときな。」

タツは張り切って中華鍋を握った。


玉子はがっついて食った。

考えてみれば、玉子は若かりし頃から

弁当は茶色オンリー。

今もムスメの弁当は前の晩飯の残り物と

レンチンばかり。

玉子は考えた。

雨もりの弁当を毎日、食いたい。

どうやってパチろうかと。


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