第2話
朝霧志乃 様
この手紙を志乃が読んでいるという事は、私はもうこの世にはいないと思います。
生きていたらこの手紙は破り捨てていただろうから。
志乃。
本当のことを言い出せなくて、ごめんなさい。
気付いていたかもしれないけれど、あれは、特別に与えられた休暇でした。
故郷、家族、そして恋人に別れを告げる為に司令官から与えられた休暇でありました。
僅かな帰郷だったけれど、一生で一番幸せな時間を過ごすことが出来たと思っていまず。
それは志乃、君がいてくれたから。
だからありがとう。
志乃。
約束を破って、ごめんなさい。
君は多分、怒っているでしょうね。でも、解かって欲しいのです。
正直に言うと、私もずっと生きて、志乃と一緒に人生を歩みたかったです。
けれど、毎日出撃していく内に、戦友達が次々に消えていく。数時間前まで談笑していた連中が、今はもういない。
自分より若い連中を訓練しては前線に送り、たった一度の作戦で全滅させて、またもや訓練の繰り返し。
実戦に役立つ戦力に達するには程遠い。しかし、前線では搭乗員が不足しているのが現実なのです。
それでも私は志乃や皆を護りたい。
心から愛する人を、無差別に殺傷する敵から護りたいのです。
その結果がこうなってしまったけれど、私は今、とても充実しています。
命は何よりも尊いものだと誰かが言ったけれど、
命を捨ててでも護るべきものはあるのだろうと思います。
それが良いのか悪いのか、今の私には判りません。
それでも、私は志乃、貴女を護りたかった。
志乃。
私がいなくなっても泣かないで下さい。
そしてどうか、強く生きて欲しい。
志乃には涙は似合わないから。志乃には太陽のような笑顔が一番似合っていると思うから。
昔、言ったこと、志乃は覚えているでしょうか。
俺の宝物は青い空と志乃なんだって。
だからもし生まれ変わることが出来たなら、青い空になりたい。
青い空には太陽があるから。
太陽のような志乃といつまでも一緒にいることが出来るから。
志乃。
こんな事を頼める資格は無いのかもしれないけれど母さんと慶子の事を、よろしくお願いします。
志乃も健康にだけは注意して欲しい、それだけが気がかりです。
でも不思議な気分です。何だか遠足に行くような、そんな軽い気持ちしか沸いてこないのです。
さようなら、志乃。
今迄本当にありがとう。こんな私の傍にずっといてくれて、妻になってくれてありがとう。
私は風になり、いつまでも君のことを見守っています。
朝霧和人
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