元ホームレス少女とのデートの続き
「この服、どう? 結構いいと思うんだよね。このフリル可愛くない?」
僕は似合いそうだと伝えると、彼女はご機嫌な様子で前に合わせた。
「どうですか? 君の彼女は、可愛い?」
「……よかったー。じゃあ後で着てこようかな」
「じゃあ、こっちは? 青の羽織。さっきの白いフリルの服と合いそうでしょ? これも後で着てこようかなー」
「……あっ、てか君も服買うんだよね。私が選んであげるよ。これとか」
彼女は僕に白い羽織を渡す。
「君黒い服ばっかりでしょ? どういうわけか、スーツも黒いシャツばっかり着てるし。だから、この白い服も着てイメチェン、どう?」
僕は心配していることを伝えると、彼女は可笑しそうに笑った。
「汚れるかも、って? まあそりゃ汚れるけど、別にどの服でも汚れるでしょ? 水はじくのはたまにあるけどさ」
「黒だったら目だないからって……っていうか、そんなに君服汚すの?」
「この前はフェンスに引っかかって袖破いたって、ヤンチャ過ぎない?」
「はぁ……私の彼氏君はおっちょこちょいですか」
「え、私? 私は結構しっかりしている方だと思うけど。まあホームレスだったから説得力ないかもだけど、一応しっかりしてるんで」
「それに、このボストンバッグだって、ちゃんと必要なものをわけて使ってるんだからね。物もなくしたこともないし」
「……まあいいけど。別にそれぐらいで幻滅するほど軽い気持ちで、君に寄り添うって決めたわけじゃないから」
「じゃあ、試着してくるね」
彼女は軽い足取りで試着室に向かった。
*****
「お待たせー……って、さっそく羽織着てるじゃん。まあ、合わせやすいよね」
「えっ? もちろん。似合ってるよ。でももっと冒険してもいいと思うんだけどなー。例えば、ちょっと明るいガラシャツ来てみたりとか、チノパン履いてみたりとか」
「……えっ、持ってるの? チノパン…………汗染みが目立つから、って、おしゃれは我慢なんだよ? 知らないの?」
「じゃあ今度、君の家でファッションショーしようよ。私も一通り着てみるから」
「……そういえば、君の家に住むにあたって、いくつか変わないとだね。服入れるタンスとか、シャンプーとか」
シャンプーはあることを改めて伝えたところ、彼女はさばさばした様子で応えた。
「あ、あのシャンプーはあんまり私の髪質に合ってないみたいだったから。一応誰でも大丈夫みたいなんだけど、ちゃんとしたの買いたい」
「……ごめん、って、別に君は謝らなくていいんだよ。だってあの時は、ただのホームレスで、風呂入れてくれるだけでもありがたかったんだからさ」
「これからは、その、彼女と彼氏なわけで、ちゃんと私もきれいになりたいって思ったから。そのための投資」
「……楽しみ? ふふっ、がんばらなくちゃだなぁ」
彼女は伸びをする。
「ねぇ、今日の晩御飯、作っていい?」
「一応ホームレスだったけど、歴はそんなに長くないし、ずっと自分の料理は研究して作ってたから、安心してほしい」
「あっ、もちろん食費は出すから。一応私もちゃんと稼いでるし、まあ学費は払ってもらってる身だけど、その、何もしてない、身寄りもそんなにはっきりしてない私だからさ、将来的にその、色々挨拶とかの時にきちんとしてないといけないし、迷惑かけてないって言いたいから」
彼女は早口になりながらも、最後はこう結んだ。
「だから、君もその時まで、一緒にいてね」
僕は頷き、彼女の空いている手を取った。
猫のようなホームレス少女と話す日々 時津彼方 @g2-kurupan
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