ホームレス少女を家に招いた三日目-3

「うーん、良い匂い。君、料理できるんだねー」


「へぇー。自炊の方が多いんだ。普通一人暮らしの大学生って、もう今の時期ぐらいは外食ばっかりになってる感じするけど。まあ、私は家すらないんだけどね」


 皿に盛り付けようと、食器棚の取っ手に手をかけたところで、彼女はこちらにやってきた。その肩には、少し余裕が出来た様子のボストンバッグが掛けられていた。


「荷物まとめられたから、帰るね。今日はお風呂も貸してくれてありがとう」


「ごはん……私の? いや、だからいいって。別に私困ってないし、これ以上迷惑かけるわけにはいかないって」


「……えっ? ごはん、私の分も作ってくれたの?」


「……じゃあ、お言葉に甘えて。ほんと君お人よしが過ぎるんじゃない? さっきも言ったけど、彼女とかできたらどうすんの?」


「その時はさすがにしないって、まあ、別にかかわるわけでもないし、いっか」


「……うん。食べていく。お腹空いたぁ」


 彼女は持っている荷物を部屋の隅に置き、机の前に座った。僕はその前に皿を置き、体面に座る。


「いただきます」


 彼女は手を合わせてつぶやく。


「……おおー。以下にも大学生の男飯って感じ」


「いやいや、私は好きだよ? こういう味。小さい頃もこんなご飯よく食べてたなーって」


「うん。でもそんなにちゃんとした記憶ない。そりゃ、小学校一、二年生の頃のことだもん」


「私のお母さんが、海外志向だった、気がする。お父さんは普通にサラリーマンだったんだけど、ついて行っちゃって」


「だから一緒に住んでた時も、お父さんと過ごした時間の方が長かったかな。まあ、あんまり愛されてるって感じではなかったけどね」


「……どうしたの? そんな目して」


 僕は心配そうな目線を送っていたことに気づく。少し失礼だったかもしれない。


「別に君まで背負わなくていいんだよ? こんなよくわからない人間の愚痴なんて、寝て忘れるのがちょうどいいんだから」


 僕はかつて、というか数日前に彼女に言われた言葉を思い出した。


「……え? 辛いことがあったらここに来ていい、って? 君、正気?」


「つらいことがあったらお互い様って、確かにそんなこと言った気がするけどさぁ」


「…………ほんとに、いいの?」


 僕が頷くと、彼女は突然涙を流し始めた。


「……ねえ、もうちょっとだけ、いていい?」


「……ありがと」


 彼女は安心した様子で口に白米を運んだ。

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