第2話

 


あれから数ヶ月が経った。私達は順調に交際を続けていた。一緒にいたら楽しくて、とても幸せな時間だった。



もう、エリック様の愛なんてどうでもよかった。あのときの私はどうかしていた。あんな男を好きになってしまった自分が情けない。



今じゃ、シエル様といる方がずっと楽しいし、心が落ち着く。でも、これが……恋か?と聞かれるとよくわからない。

一緒にいると落ち着くし、シエル様といるのは楽しい。



だけどそれは恋なのだろうか……?わからないし、そもそも、何で彼が私のことが好きなの?って聞いたら……



『好きになるのに理由なんて必要?一目惚れだよ』

と言われてしまった。正直、意味がわからなかった。私は好きになるのには理由が必要だと思っているから。私がエリック様を好きになった理由は"私に優しい"からだ。



誰とも必要とされていない私に優しくしてくれたから。今思うとこれは依存なのでは?と思うけど、当時はそう思っていたのだ。でも、私には可愛げがないからだからエリック様は振り向いてくれない、とそう思ったのは彼が浮気していたときに私はエリック様のお飾り妻になる覚悟はあった。……結果的に婚約破棄されてしまったが。



でも、シエル様は違う、浮気なんてしてないし、何故か私に一途だ。正直、意味がよく分からないが。



「アリシア、愛してるよ」



この言葉を聞く度に胸が苦しくなる。それは罪悪感なのか、それとも……

この気持ちが何なのかわからないまま、私は彼の隣にいる。



そして私は昔と何も変わらない。シエル様に必要としてくれるから今の私がいる。要するに依存なのだ。彼から離れることは多分できないだろう。

それに、離れたくもない。私は彼といることが心地いいと思ってしまったのだから。



△▼△▼



今日は珍しく、両親から呼び出しを受けた。いつもは妹――アシュリーだけを可愛がり、私を無視するのに一体どういう風の吹き回しだろうか。

嫌な予感しかしない。しかし――。



『絶対に来い』とそう言われたから行かないわけにもいかない。それに、シエル様もついてきてくれているから少しだけ安心している。

もし仮に何かあったとしてもきっと大丈夫だと思えるほどに……私は彼に信頼を置いているのだ。



「……とりあえず、僕はここで待機しておくね。何かあったらすぐに駆けつけるからさ!」



と言ってくれた。その言葉だけで十分心強いし、嬉しい



「ありがとうございます。では行ってまいりますわ……」



そして扉を開く。するとそこには母と父とそして――。



「………は?エリック様?」



何故かそこにエリック様がいたのだ。数ヶ月ぶりに見るエリック様はイケメン……ではなく、何か……痩せこけていた。目の下にクマができており、顔色も悪い。



「……久しぶりだな。アリシア」



「えぇ、お久しぶりですわ。それで何故ここにいらっしゃいますの?というより貴方、どうしてそんなにやつれていらっしゃるんですか?」



疑問しか浮かばない私に、父は淡々とこう告げた。簡単に言うと、エリック様と復縁しろ……ということらしい。嫌だった。だってまた利用されるだけだから。

エリック様は新しい女とうまく行っていないのだろう。風の噂で聞いたことがあるし。



最近はエリック様の弟の方は反省して何か……よりを戻したとか何とか……というのは聞いている。正直、よくよりを戻したなと思ったくらいだ。



「シエル・クラークと婚約者なんだろ?あいつは公爵で俺はこの国の皇太子だ。俺の方が立場は上だぞ。だから別れてこい」



それはそうかもしれない。身分的にはそうだし、家のことを考えると、確かに別れた方がいいのかもしれないけれど……。だけど―――! 私はシエル様のことを裏切ることなんてできない。それに私はもうシエル様に依存している。離れられない。



それに……私は今更エリック様のことなんか好きではない。

あんなに酷いことをされたんだもの。今さら好きになれるはずがないじない。



「……いやですわ。私はもうエリック様のことは好きではありませんの。それに私はもうシエル様のものですわ」



はっきりと断った。これで諦めてくれるといいのだが……と思っていたがやはり無理だったようだ。



「…言っちゃなんだが、お前はあの男に依存してるんじゃないのか?」

「………っ」



図星。確かに私はシエル様に依存している。だから否定はできない。

でも……それでもシエル様が好きだと、そう言える。言えないとダメだと思うから。

それに、シエル様は私を好きと言ってくれる。私を必要としてくれる。だから私はシエル様の隣にいたい。



例えこれが恋ではなく、依存から来るものだとしても。

私は今の自分の気持ちを信じたい。

すると、突然、私の手首を掴んできた。



「お前さ。変わらないよな?俺のときも依存してたのは分かってたし。だから俺には分かる。シエル・クラークはいつかアリシアを捨てるってことがさ。だから俺のところに来い。今度は大切にする。だからさ……」



何を言ってるんだろうこの男は。シエル様が私を見捨てる?そんなことあるはずがない。………だって飽きるのならもっと早くに飽きているはずだから。なのに彼は未だに私を愛してくれている。私は、その愛に溺れ、依存している。

私は、彼に捨てられることが怖い。

だから……彼の愛を失いたくない。



……もし、彼が本当に私を捨ててどこかへ行ってしまったら私はどうなるんだろうか……?考えるだけでも恐ろしい。

彼の隣にいると落ち着く。安心する。でも同時に不安にもなる。

だから私はシエル様から離れられない。

でも、こんな私でもシエル様は好きだと言ってくれているし。



「だから、俺と一緒になった方がいいんだよ。好きかもどうか分からない奴より断然俺の方が――」



「――そこまでだ」



気がつくと、シエル様がエリック様の手を振り払ってくれていた。そして――

シエル様は私を強く抱きしめてくれた。しなやかな腕に包まれて、私はとても安心する。あぁ、やっぱり私はこの人が好きなのだと改めて実感する。

だから私はこの人から離れることはできない。たとえそれが依存だとしても、私はこの人を手放せない。



"好きと言ってくれるから好き"だなんてひどい話だ。私は彼を都合の良い存在として利用しているだけなのかもしれない。

だけど、今はそう思われても構わない。

この人と居られるのならば――。

私はこれからもこの人の傍に居るだろう。



「……これ以上、僕のアリシアに触れるな。汚らわしい手で触れないで欲しいんだけど?」



「……滑稽だな!アリシアはお前のことなんて愛していない!依存しているだけなんだ!」



笑いながらエリック様は言った。

私は何も言い返せなかった。依存していることは事実だし、この気持ちがなんなのかもわからないからだ。

でも、



「そうか。でも……それでも構わないさ。僕は彼女が僕を必要としてくれればそれでいいんだよ?」



そう言って彼は私を連れてこの場から去っていく。私はシエル様に手を引かれるままついていく。

私は、シエル様がいればいい。

それだけで幸せだと思えるから。……周りからは歪んだ愛だと言われても。

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