本当
「……もうちょっと」
ヘレナは俺に抱きついてきたまま、恥ずかしそうにそう言ってきた。
「……本当にちょっとだぞ」
「……うん」
今は信用されることが大事だからな。
下手に断ってなんでそんなに急いでるのかを聞かれたりでもしたら面倒だし、これでいいはずだ。
そう思いつつ、俺はヘレナが満足するまで、そのまま待った。
「もうそろそろいいか?」
そうして、かなりの時間が経ったと思うのに、未だに離れてくれないヘレナに痺れを切らした俺はそう言った。
「……もうちょっと、ダメ?」
すると、上目遣いになりながら、まだ満足出来ていない様子のヘレナはそう聞いてきた。
「ダメだ。ちょっとって言っただろ」
「……分かったわよ」
俺の返事を聞いたヘレナは、渋々といった感じではあるけど、ちゃんと離れて、ベッドから起き上がってくれた。
そしてそのまま、外に出られる程度に身なりを整えたかと思うと、部屋の扉から顔だけを出して、朝食を持ってくるように言っていた。
ヘレナがほぼ無理やり俺をこの部屋に泊まらせたんだから、もちろん、俺の分もだ。
「…………ねぇ」
「なんだ?」
そうして、朝食が来るのを適当に待っていると、ヘレナが緊張したような面持ちで俺に声をかけてきた。
「き、昨日、寝る前に言ってたことって、ほんとうに本当?」
昨日寝る前に言ってたこと?
……ヘレナのことが好きって話か。
「…………本当だよ」
嘘だって言えばいいのに。ただ、一言、嘘だと言えばいいだけだったのに、俺はそう言ってしまっていた。
「そ、そう……わ、私も、昨日言ったことは本当、だから」
すると、ヘレナは顔を真っ赤にしながらも、俺の目を見て、そう言ってきた。
……ヘレナに関しては嘘であってくれよ。
そっちの方が気持ち的に楽に逃げられたのに。
そんなことを思っているうちにも、朝食が運ばれてきた。
ヘレナが公爵令嬢だからかは分からないが、随分と早かったな。
「……朝食、食べるか」
「う、うん」
さっさと朝食を食べて、ヘレナから離れるタイミングを見つけよう。
このままじゃお互いにとって、よくないと思うからな。
まぁ、そんなに心配しないでも、ラミカを探したいってことは昨日のうちに普通に言ってあったし、大丈夫だと思うけど。
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