これで良かったんだけど…
朝になった。
ヘレナは隣で薄い服のまま、俺に抱きついてきながら眠っている。
一線を超えた……なんてことは無い。
正直に言うと、あのままアリーシャの時みたいに、されるのかと思った。
でも、違った。隣に抱きつかれたかと思うと、ヘレナはそのまま幸せそうな顔をして眠ってしまったんだ。
……別にそのことにがっかりしているわけじゃない。俺じゃヘレナを幸せに出来ないんだから、これでいいに決まってる。
ただ、一言だけ言わせてくれ。
なんであんな無理やりな感じだったのに、何もしないんだよ!? これで良かったんだけど、なんか、違うだろ!? いや、これで良かったんだけどさ。
「んぅ……」
ヘレナが目を覚ましそうな様子を見て、俺は思った。
なんで、俺はヘレナが寝ている間に逃げなかったんだ? 今なら、デバフスキルも解けてるし、逃げられたじゃないかよ。
……いや、ヘレナに抱きつかれてるから、無理だったってことにしておこう。
全然強く抱きしめられてるわけじゃないけど、もうそういうことにしておこう。そうじゃないと、俺が間抜けすぎる。
まだヘレナは完全には起きていないんだし、今からでも間に合うかもだけど、信用してもらって上手く逃げることにしよう。
このヘレナが寝ている時間に逃げなかったのが俺に逃げる意思がないという証拠になるはずだ。
「起きたか?」
「へ? な、なんであんたが……あっ、そ、そういえば、そう、だったわね。……お、おはよう」
恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、ヘレナはそのまま力を強めるようにして、抱きしめてきた。
「あ、あぁ、おはよう、ヘレナ」
俺は内心の動揺を隠すようにして、そう言った。
別にあれだ。良くない言い方かもだけど、リアやラミカで慣れてるはずだ。だから、動揺なんて余裕で隠せる。
「……うん」
「ヘレナ、朝なんだから、離してくれるか? さっさと起きるぞ」
ヘレナに早く起きなくちゃならない理由があるのかは知らないけど、俺は急かすようにしてそう言った。
俺は早く起きたいからな。
特に責任を取らなくちゃならないことも今回はされなかったし、さっさとこのまま逃げたいし。
……公爵令嬢と一緒に寝るってだけで本来は責任を取らないとダメな事なんだろうけど、色々とありすぎて俺の感覚もおかしくなってきてるな。
「……もうちょっと」
そう思っていると、ヘレナは俺に抱きついてきたまま、恥ずかしそうにそう言ってきた。
「……本当にちょっとだぞ」
「……うん」
今は信用されることが大事だからな。
下手に断ってなんでそんなに急いでるのかを聞かれたりでもしたら面倒だし、これでいいはずだ。
そう思いつつ、俺はヘレナが満足するまで、そのまま待った。
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