前世の推しなんだよ

 よし! これなら、扉を開けて逃げられる!


「……やっぱり、逃げようとしてたんじゃない」


 そう思って扉に手を伸ばした瞬間、俺の体はまた、力が入らなくなり、その場に手を着いた。


「……い、いや、ヘレナ、これは違うんだよ」

「何が違うのよ」

「そ、れは……」

「そう、もういいわよね? リアともしてるんだものね。少しくらい無理やりでも、そうやって何度も嘘をつくあんたが悪いんだからね?」


 そう言って、ヘレナは俺の体に股がってきた。

 なんか、少し前に見たような光景だ。

 え? 冗談だよな?


「へ、ヘレナ? どう、した? 取り敢えず、そこを退こうな?」


 風呂上がりのせいか、赤く火照っているヘレナに向かって俺はそう言った。

 そうだ。風呂上がりだからだろう。赤くなっているのなんて、それ以外、考えられないんだからな。


「も、もう分かってるんでしょ?」

「な、何が──」


 俺が何かを言い切る前に、俺はヘレナにキスをされた。

 ヘレナは涙が出るほど、羞恥心が凄いのか、耳の先まで顔を真っ赤にしているのが下からでも分かる。


「へ、ヘレナ、自分が何をしてんのか分かってんのか!?」

「わ、かってるわよ」


 いや、分かってるはずがない。

 絶対、何かがヘレナの中で爆発して、おかしくなってるんだ。

 早く正気に戻さないと、本当に取り返しのつかないことになるぞ。


「分かってない。ヘレナ、お前は何も分かってない。よく考えるんだ。お前は俺のことが好きなのか?」

「は、はぁ? 私は、別にあんたのことなんか──」


 俺の言葉を聞いたヘレナは、顔を真っ赤にしたまま、反論をしてきた。


「そうだろ? 好きなんかじゃないんだろ?」

「……す、好き、よ。……わ、私は、あんたのことが大好きなの! わ、悪いの!?」


 ヘレナはヤケになったようにそう言ってきた。

 は? いや、は? ヘレナが、俺の事を大好き? い、いやいや、本当になんの冗談だよ。


「……あんたの答え、聞かせなさいよ」

「……え?」

「ど、どっちなのよ。私のことが、す、好き、なのか、嫌い……なのか」


 俺は、本当にヘレナに迫られてるのか? 

 もしも、そう、もしもではあるんだけど、ヘレナが言っている俺を好きだって言葉が本当なんだとしたら、嫌い、だなんて言えば、確実に悲しむ。

 今俺の言うべきことくらい分かってる。

 それでも、ヘレナは前世の俺の推しなんだよ。


「…………好き、だよ」


 俺は犯罪者だ。

 俺の本当の気持ちを伝える方が後々ヘレナを傷つけることになる。

 そう、分かってるはずなのに、俺の口からはそんな言葉が出ていた。


「……ほ、本当?」

「…………あぁ、本当だ」


 そんな確認の後に、ヘレナはもう一度、俺にキスをしてきた。

 そしてそのまま、ベッドに移動させられて、隣にヘレナも寝転んできたかと思ったら、抱きしめられた。

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