気を使うところが違うだろ
デバフスキルを掛けられたまま、俺は丁寧にとはいえ、本当に宿の人にヘレナが借りているのであろう部屋に連れてこられてしまった。
「……ヘレナ、そろそろ本当に怒るぞ?」
「……確かに、ちょっと強引だってのは分かってるわよ」
ちょっと所じゃないだろ。
「でも、あんたが逃げようとしてたのも事実じゃない。お互い様よ」
俺が内心でそう思っていると、ヘレナは開き直ったようにそう言ってきた。
「全然お互い様なんかじゃないからな? 俺は逃げようとなんてしてないって何度も言ってるだろ」
「……ほら、そうやってまた嘘を付く」
……そう言うのなら、もうほっといてくれたらいいじゃないか。
ヘレナからしたら……というか、実際に俺は大嘘つきなんだからさ。
「嘘じゃないって」
「……とにかく、そこでそのまま横になってて。私はお風呂に入ってくるから」
そう言って、ヘレナはこのまま俺を放置して本当に風呂場に向かおうとしだした。
「は? ちょっと待て! 風呂に行くのは、別に好きにしたらいいと思う。でも、せめてこのスキルを解いてから行ってくれ」
「……嫌よ。絶対逃げるもん」
「に、逃げないから、頼むって。体とか、痛いしさ」
別に体なんて全然痛くない。
体が重い感覚はあるけど、気分的にはただベッドでゆっくりとゴロゴロしているだけ、みたいな感じで、むしろ楽なくらいなんだけど、俺はそう言った。
「嘘。ちゃんと自分の体で試して、痛くないようにしてるわよ」
すると、ヘレナは当たり前のような顔をして、そう言ってきた。
「……は? いや、自分の体で試した、のか?」
「一応、あんたに使うこともあるかもと思って、試したのよ。……あんたに痛い思いして欲しいわけじゃないし」
照れたようにヘレナはそう言う。
いや、そんなところに気がまわるのなら、なんで俺を逃がしてくれないんだよ!? そこじゃないだろ!?
「と、とにかく、私はお風呂に入ってくるから!」
「え、いや、ちょっ……」
マジで行きやがった。
俺を放置して、マジで行きやがった。
……いや、別に行きやがったって言っても、風呂はこの部屋の中にあるし、すぐそこに居るにはいるんだけど、服を脱ぐ音がもう聞こえてきてるんだよ。……つまり、もう俺が何を言っても戻って来ないってことだ。
え? おかしくない? 絶対、おかしいだろ、これ。
「……ラミカ、居ないのか? 情けなくて悪いんだけど、助けてくれよ」
ヘレナに聞こえないように、俺は小声でそう言った。
ただ、俺の思いも虚しく、ラミカが現れてくれることは無かった。
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