デバフスキル
「ちゃんと借りてるから、問題しかないんだよ」
「……じゃあ、私もそっちに泊まる」
なんか、もう何を言っても信じて貰えなそうだし、このまま逃げるか。
そう思って、俺が逃げようとしたところで、体の力が一気に抜け落ちた。
「は?」
地面に手を付きながら、俺は今の状況に理解が追いつかなくて、そんな間抜けな声を出した。
なんで俺は地面に手なんてついてるんだ? なんで、立ち上がれないんだ? デバフのスキルか何かか? いや、そんなのありえないだろ。
状況的にそうとしか考えられないんだけど、俺の原作知識がそれを否定する。
ヒロインが主人公と出会ってなければ、フィオラの目も魔眼とかいうよく分からないものになっていたり、原作知識なんてもうあってないものだってことくらい分かってるんだけど、ヘレナがデバフ魔法を使っている、なんてことだけは否定してしまう。
「どう? 私も少しは強くなったでしょ?」
そう思っていると、上からそんな声が聞こえてきた。
そんな声で否定できなくなってしまった。
間違いなく、これはヘレナの仕業なんだと俺は嫌でも思い知らされた。
少しは強くなった? ……ふざけるなよ。こんなの、少しどころじゃないだろ。
立つことすら出来ないレベルのデバフスキルをヘレナが持っているなんて聞いてないし、こんな短時間で使いこなせることもありえないんだよ。
「あ、あぁ、そうだな。凄い、ヘレナは凄いよ。それは分かったから、取り敢えず、力が入るようにしてくれるか?」
内心でそんなことを思いながらも、俺はそう言った。
いくらデバフスキルで強くなったとはいえ、効果範囲は限られるはずだ。
つまり、ヘレナがデバフスキルを解いてくれた瞬間に全力で走り出せば、ヘレナのデバフ効果の範囲外に逃げられるはずだ。
そして、そこまで逃げ切れれば、俺の勝ちだ。
「嫌よ。どうせ逃げようとしてるんでしょ? ダメだから」
「い、いや、そんなわけないだろ? 俺は逃げようとなんてしてないから、解いてくれよ。この体勢、普通に恥ずかしいからさ」
羞恥心なんて命に比べればどうでもいいことではあるんだけど、俺はそう言った。
「ちょっと、この人を私の部屋に連れて行ってくれないかしら? もちろん、丁寧にね」
すると、ヘレナは俺を無視して、宿の人にそんなことを言い出していた。
「え、は? 何言ってるんだよ、ヘレナ。冗談だろ? 笑えないから、やめてくれ」
ヘレナは何も言ってくれない。
俺が冗談だと言ってくれと願っているうちに、宿の人は俺の体を丁寧に一つの部屋に運び出した。
え、マジで解いてくれないのか? これ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます