だからなんでバレてるんだよ

「ここか?」


 ヘレナを抱っこ? したまま、道案内に従って歩いていると、明らかに高そうな宿が見えてきたから、俺はそう聞いた。


「え、えぇ、こ、ここよ」


 すると、ヘレナは顔を赤くして恥ずかしそうにしながらも、そう言って頷いてくれた。

 ……恥ずかしいのなら、下ろして欲しいと一言でも言ってくれれば、俺は喜んで下ろすっていうのに。


「ほら、もう着いたんだったら、下ろすぞ」


 まぁ、ヘレナが下ろしてくれと言わなくたって、宿に着いたんだから、俺はヘレナを下ろすんだけどさ。


「ま、まだダメよ! ち、ちゃんと中まで運んで。……あ、あんたが逃げるかもしれないんだから、中まで行かないと安心できないのよ」


 ……別に中に入ったって、俺がヘレナから逃げられる事実に変わりはないと思うんだけど、まぁ、ヘレナがそれで信用してくれるって言うのなら、言う通りにするか。

 疑われたままより、信用されたまま逃げた方がいいだろうしな。


「分かった。中まで行けばいいんだな」

「う、うん」


 俺が確認のためにそう言うと、ヘレナは素直に頷いてくれた。

 よし、なら、さっさと中にヘレナを連れて行って、俺は戻ろう。

 ……別に戻る場所なんて無いけど。


「ほら、中に入ったんだから、今度こそ下ろすぞ」

「……」


 ヘレナが何も言ってくれないけど、俺はそんなことを気にすることなく、ヘレナを下ろした。

 ちゃんと言う通りに中まで連れてきたんだから、何も問題なんて無いはずだ。


「それじゃあ、俺は行くからな」

「えっ? ち、ちょっと、行くってどこに行くのよ」


 どこって、俺が借りたってことになってる宿だけど。……まぁ、本当は宿なんて借りてないし、強いて言うのならその辺じゃないか?


「俺が借りた宿だけど」


 息を吐くように、俺はそんな嘘をついた。

 

「……嘘。もうあんたも私と一緒の宿に泊まりなさいよ」

「俺が借りた宿に迷惑がかかるだろ」


 ヘレナの言ってる通り嘘なんだから、宿なんて借りてないし誰の迷惑にもかからないんだけど、嘘がバレないようにするために、俺はそう言った。

 ……なんでかは分からないけど、俺が嘘をついてるってもうほぼバレてそうだけど。


「……宿なんて借りてないんだから問題ないでしょ」


 だからなんでバレてるんだよ。

 フィオラじゃないんだからさ。


「ちゃんと借りてるから、問題しかないんだよ」

「……じゃあ、私もそっちに泊まる」


 なんか、もう何を言っても信じて貰えなそうだし、このまま逃げるか。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る