意地になってる

 ヘレナに抱きつかれて、離してもらえないまま、辺りが暗くなってきてしまった。

 ……あの、ヘレナの忍耐力、凄すぎないか? ……いや、違うな。これはあれか。意地になってるってやつだ。


「……はぁ。ヘレナ、もう暗くなってきてるから、そろそろ本当に離してくれ」


 その事実に気がついた俺は、思わずため息をついてから、そう言ってしまった。


「ッ……い、嫌よ。もう、嫌なの。離れたくないの。逃げられたくないの」


 すると、俺のうんざりしたようなため息を聞いたからなのか、ヘレナは俺に顔を見られないように俺の胸に顔を埋めてきて、涙声でそう言ってきた。

 ……今のは俺が悪かったか。……今のは、っていうか、最初から悪いのは俺か。

 誘拐をした件も、前世の記憶を思い出す前とはいえ、俺には違いないんだからな。


「……分かった。ヘレナの泊まっている宿に行くから、離れてくれるか?」


 絶対こんなこと言わない方がいいってことは分かってるんだけど、俺は抱きついてきているヘレナに向かってそう言った。

 どうせ俺は金を持ってないし、そこに泊まることなんて出来ないんだけど、そう言わないともうダメそうだったからな。


「……逃げない?」

「逃げない」

「……このままがいい」


 なんの確認だったんだよ。

 いや、信用出来ないのは当たり前だし、いいんだけどさ。


「あ、あんたが信用出来ないとかじゃない……こともないけど、今は違うのよ! ……その、い、今は顔を見られたくない、から」


 俺のそんな思いを察したのか、ヘレナは慌てた様子でそう言ってきた。

 ……そういえばさっき、涙声だったな。

 いや、でも、このままじゃお互い歩きにくいし、目立つんだけど。


「……分かった。だったら、これで大丈夫か?」

「へっ!? ち、ちょっと! い、いきなり……」


 そう思って、ヘレナの体を持ち上げてみたんだけど、こっちの方が目立つか? ……いや、変わらないな。

 歩きやすさはこっちの方がマシだし、もうこれでいいや。

 正直、暗くなるまでこんなところで立たされてたんだから、疲れたわ。早くヘレナの泊まる宿に行って、ヘレナと別れよう。


「ヘレナ、道はこっちでいいのか?」

「ち、ちょっと、ほんとに、このまま行くの? ……べ、別に私は全然これで問題ないんだけど、重くない?」


 いくら俺でも、ヘレナくらいの女の子相手ならこのまま宿に行くことくらいできるに決まってる。

 特に重いとも思わないしな。


「重くないから、道案内をしてくれ」

「う、うん」


 ……よし、話がずらされていることにヘレナが気がつく前に、さっさと行こう。

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