もう嘘でもいいだろ

「……まだ泊まる場所を確保できてないのなら、私のところに来なさいよ」


 ……言われてしまった。

 今、俺が一番言われたくなかった言葉を言われてしまった。


「……い、いや、も、もう宿は取ってあるから、大丈夫なんだよ」


 素直について行く訳にもいかないし、俺はそんな嘘をついた。

 

「……嘘じゃないでしょうね」

「そんなくだらない嘘、つくわけないだろ?」


 最近の俺って大体こんなことを言った時、嘘をついてるよな。

 ……ま、まぁ、別に意地悪で嘘をついてるわけじゃないんだし、別にいい……ことは無いかもだけど、いいだろ。

 死にたくないからこその嘘なんだから。


「だったら、私もその宿まで送ってあげるわよ」

「は? いや、何言ってるんだよ。普通、逆だろ。自分の立場を考えろよ」

「……大丈夫よ」


 大丈夫なわけないだろ。

 第一、俺が大丈夫じゃないんだよ。

 

「大丈夫じゃないだろ」

「……あんたの泊まる場所を確認したら、ちゃんと迎えを呼んで私は宿に戻るから、ついて行かせてよ」


 ……迎えを呼ぶとかそういう問題じゃないんだよ。単純に、宿を取ってるなんて嘘だから、俺はダメだって言ってるんだよ。

 本当にこのままヘレナが着いてきたら、それがバレるだろ。


「ダメだって」

「……なんでよ。……やっぱり、嘘だから?」

「……嘘じゃないよ」


 もういいだろ? 嘘でも。

 ……めちゃくちゃなことを思ってる自覚はあるけど、もう嘘でもいいじゃないか。見逃してくれよ。

 

「もういいだろ? 俺は行くからな」


 そう言って、もう俺はヘレナを置いてその場から去ろうとした。


「あっ、ち、ちょっと、それがほんとなら、なんでそんなに嫌がるのよ……」


 すると、ヘレナは涙目になりながら、また、俺の服の裾を掴んできて、そう言ってきた。

 それ、ずるいだろ。……いや、俺は命がかかってるんだし、着いてこないようにちゃんと言うけどさ。


「別にヘレナが嫌なわけじゃないぞ? それでも、ダメなものはダメなんだよ。俺を信用してくれよ。逃げたりなんてしないからさ」

「……どの口で言ってんのよ。何回もそんなことを言って、逃げようとしてるじゃない」


 俺の信用性が全くないふざけた言葉を聞いたヘレナは服の裾を離すことなく、そう言ってきた。

 ……まぁ、そうだよな。俺が逆の立場だったとしても、絶対信用なんてしなかっただろうし、予想通りの反応ではある。

 でも、それじゃあ困るんだよ。


「もう絶対逃がさないわよ! ちゃんとあんたが泊まる宿に連れて行ってよね!」


 そう思って、また無理やり逃げ去ろうと考え出したところで、ヘレナは俺に抱きつきながらそう言ってきた。


「……ヘレナ、目立ってるから。逃げたりしないし、離れてくれ」

「嫌よ。どうせまた、逃げるんでしょ」


 え、これどうしよう。

 まさかとは思うけど、もうついて行くしか無いのか? ……明日早起きして、直ぐに宿を出る、とかだったら、大丈夫、なのか? ……いや、ダメだダメだ。

 こうやって油断して、いつも俺は失敗してただろ。絶対ダメだ。


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