俺の、気持ち……

「……しちゃい、ましたね」


 アリーシャは嬉しそうに、俺の腕の中でそう言ってきた。

 ……そう、しちゃったんだ。……ダメだって分かってるのに、しちゃったんだ。


「声、いっぱい外に漏れちゃいましたね?」


 アリーシャはまるで他人事のように、そう言ってくる。

 いや、漏れたのはアリーシャの声だからな? 羞恥心とか無いのか? アリーシャは。普通、そう言うのって恥ずかしがるもんだろ。


「好きです。大好きです。……あなたの気持ちも、聞かせてください」


 俺がやってしまったことを後悔しているのを知ってか知らずか、アリーシャは俺の腕の中で上目遣い気味に俺の目を見ながら、そう言ってきた。

 アリーシャが、俺を好き……じゃあ、俺は……? 俺の、気持ち……。


「……俺も、アリーシャが好……いや、俺は……こんなことをしておいて悪いが、別に、好きじゃ、無い」


 アリーシャを抱きしめて、顔を見られないようにしながら、俺はそう言った。

 自分では分からないけど、多分、相当酷い顔をしてると思ったから。

 

 好きだ。

 アリーシャだけじゃなく、更に最低なことを言うけど、リアもラミカも、俺は好きだ。

 でも、ラミカに対してはともかく、ほかの二人に対してはそんなこと、口が裂けても言う訳にはいかなかった。

 自分の気持ちを誤魔化してでも、アリーシャやリアがそれで辛い思いをするんだとしても、俺が二人に好きだと言って後々本当のことを……俺が誘拐犯だと知るよりは、心のダメージが少ないと思ったから。


「また嘘、ですか?」


 アリーシャは俺の心を見透かすように、動揺した様子なんて全く見せずに、いつも通りの声色でそう言ってきた。


「……嘘じゃない」

「だったら、顔を見せてください。そして、私の目を見て、もう一度答えてください。私が好きか好きじゃないのかを」


 なんで俺の近くにいる女の子はみんなそんな変なところで察しがいいんだ。


「……なんでわざわざ本当のことを言ってるのに、そんなことをしないとダメなんだよ。めんどくさいから、嫌だよ」


 そう思いつつも、俺はそう言った。

 

「……分かりました。でしたら、服を着るので離してください。……服、着て欲しいんですよね?」


「そ、それはそう、なんだけど……も、もうちょっと後でもいい気がしてきたな。……ほ、ほら、今さっきそういうことをしたばっかだしな?」


「ふふ、だからこそ、服を着るべきじゃないんですか? 私はともかく、あなたは隠したいんですよね? 服を着ていないと、さっきの私の声の誤魔化しなんて絶対に出来ませんよ?」


 そう言われた俺は、渋々ではあるけど、アリーシャから離れた。

 アリーシャに顔を見られるけど、大丈夫だ。もう、さっきみたいな酷い顔はしてないしな。


「……なんだよ?」


 ジロジロと俺の顔を見てくるアリーシャに向かって、俺はそう言った。


「もう一度、答えを聞かせてください。私のことを好きか、好きじゃないのか。……もしもあなたが本当に私のことを好きじゃないのなら、諦めます。昨日のことも、今日のことも誰にも言いませんし、隠し通します」


 すると、アリーシャは俺の目をしっかりと見て、そう言ってきた。

 俺は思わずそんなアリーシャから目を背けそうになってしまったんだけど、アリーシャは目をそらすことなんて許さないとばかりに優しく俺の頬に両手を当ててくる。

 

「…………好き……じゃない。……さっきも、言っただろ」


 アリーシャの目から目を逸らせなくなった俺は、そう言った。

 ……大丈夫。バレない。バレなかったら、アリーシャは全部秘密にしてくれるって言ってくれてるんだ。だから、大丈夫。

 そう思いながら。

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