別に、バレない、よな

「そ、それで、アリーシャは協力、してくれるのか?」

「嫌ですけど?」


 希望的観測だってことは分かってる。

 それでも、勝手にアリーシャなら協力してくれると思ってた。

 なのに、アリーシャの口から出てきた言葉は、当たり前と言えば当たり前なんだけど、そんな無慈悲な言葉だった。


「私は公爵令嬢なんですよ? ちゃんと正直に話して、あなたには責任をとってもらわないといけませんしね」


 そして、アリーシャは続けてそう言ってきた。

 ……言いたいことは分かる。でも、最後の方は俺の方からも求めてたけど、きっかけはアリーシャが夜這いをしてきたからだろ? 少しくらい、俺に協力してくれてもいいと思うんだよ。


「い、いや……でも、今回俺がアリーシャとしてしまったのは、アリーシャがいきなり夜這いなんてしてきたからだろ? だ、だから、ちょっとくらい俺に協力してくれてもいいと思うんだよ」


 そう思った俺は、そのままそう言った。

 これなら、アリーシャにも罪悪感が芽ばえるだろうし、協力してくれるはずだと思ったから。


「私が夜這いなんてことをしたのは、あなたがクローリスに嘘までついて、約束を破るからですよ?」


 すると、アリーシャは俺に小さい胸を押し当てながら、そう言ってきた。


「い、いや、それは……た、確かに、クローリスに嘘をついたのは認める。それは認めるが、夜這いなんてすることなかっただろ。元々約束してたのは、一緒に寝るだけのはずだったんだから」


 そんなアリーシャに俺は内心で動揺しつつも、そう言った。

 

「先に約束を破ったのはあなたですよ? あなたは私を責められる立場なんですか?」


 アリーシャが責めるようにそう言ってくる。

 ……確かに、先に約束を破ったのは俺だけど……俺、なんだけどさ、夜這いは無いだろ。マジで。夜這いだけは無いだろ。


「朝になりましたが、起きていますか?」


 そう思いながらも、俺がアリーシャに反論しようとすると、扉をノックしながらそんなクローリスの声が聞こえてきた。

 

「えぇ、起きーー」

「お、起きてるよ。後でそっちに行くから、中には入んないでくれ」


 そんなクローリスの言葉に普通にアリーシャが答えようとしてたから、俺はアリーシャが痛くないように気を使いながらもアリーシャの口を抑えて、扉の向こうにいるクローリスに向けてそう言った。


「? 分かりました」


 すると、クローリスはそう言って、扉の前から離れていった。

 ……危なかった。

 と言うか、アリーシャとアリーシャだろ。なんで普通に答えようとするんだよ。

 今、俺とアリーシャは服を着てない裸の状態なんだぞ? こんなところを見られたら、決定的瞬間すぎるだろ。


「どうして邪魔をするんですか」

「いや、逆になんで邪魔しないと思ったんだよ。……と言うか、まだこの話は続けるとして、取り敢えず、お互い服を着ないか?」


 何故か責めるような目を向けてそう言ってくるアリーシャに俺は体を起こしながらそう言った。

 昨日、散々見たけど、なるべくアリーシャの肌を見ないようにしながら。


「私としては、このままの状態で誰かが来てくれる方がありがたいんですけどね」


 すると、アリーシャも体を起こしてから、俺に抱きついてそう言ってきた。


「……あ、アリーシャ……それは、ダメ、だろ? だから、取り敢えず、離れような?」


 ダメだって分かってるけど、昨日アリーシャとした事のせいで割と吹っ切れてる部分もあるから、俺は早くアリーシャに離れて欲しくて、そう言った。

 正直に言うと、さっきからずっと我慢してるんだよ。

 昨日体を重ねた美少女がまだ隣に裸でずっといるんだぞ? 何も思わないわけが無いだろうが。


「ふふ、もう一度、しますか? 今、したら、絶対にバレますけどね?」


 そう思っていると、アリーシャは俺が何を思っているのかを察したのか、また恍惚とした笑みを浮かべて、そう言ってきた。

 

「す、するわけないだろ。ほ、ほら、さっさと離れて、服をーー」


 服を着ろ。

 そう言おうとしたところで、アリーシャは俺にキスをしてきた。


「どうしますか? 私はしたいですよ? でも、する場合は、昨日と違って声が外に漏れちゃいますけどね?」


 俺をその気にだけさせて、アリーシャはそう言ってくる。

 そんな顔でそんな態度を見せられたら、俺の中の何かが湧き上がってくるのを感じる。

 そして、俺は気がついたら、アリーシャのことを押し倒していた。

 アリーシャはまるで狙い通り、と言ったような笑顔を見せて、キスをしてきた。

 もう、いい、よな。別に、バレない、よな。……この部屋の周りに気配は無いし、大丈夫だ。

 無理やりにでもそう思って、俺はまた過ちを犯した。

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