今日さえやり過ごしてしまえば
「案内、ありがとな」
「いえ、それが私の仕事ですから、気にしないでください」
クローリスにアリーシャの部屋とは違う部屋に案内してもらった俺は、そう言って礼を言った。
……嘘をついている罪悪感もあるしな。
「それでは、私はアリーシャ様に旦那様の許可が得られなかった、と伝えてまいりますね」
「あ、あぁ、頼んだ。……それじゃあ、もう俺は寝るから」
「はい、ごゆっくりお休み下さい」
そう言って、クローリスは俺に一度頭を下げてから、部屋を出ていった。
よ、よし、これで大丈夫だ。
明日、明後日、いつになるかは分からないが、絶対にこの嘘はバレる。
それくらいいくら俺でも分かってるつもりだ。だって、アリーシャが一言公爵にこのことを聞いたらいいだけだからな。
ただ、別にバレてもいいんだ。どうせ明日には帰るし、バレようがバレまいが同じなんだよ。
今日さえやりすごしてしまえば、俺はアリーシャと一緒に寝るなんてことしなくてもいいんだ。
「はぁ、疲れた」
そう思いながら、別に何か勝負をしていた訳でもないのに内心で勝ちを確信した俺はそう呟いてベッドに仰向けで寝転んだ。
……一応、直ぐにバレるんじゃないか? という不安もある。
ただ、アリーシャもわざわざそんなに直ぐに公爵に確認に行ったりなんてしないだろうし、大丈夫だ。……大丈夫に決まってる。
「……寝よ」
少しでも早く明日になって欲しくて、俺はそう呟いて目を閉じた。
眠っちまえば時間なんて直ぐに過ぎるしな。
目を閉じると、俺は驚くほど早く眠りにつくことが出来ていた。
「ーーきてください」
……なんだ? 朝なのか……? いや、まだうっすらとしか目を開けられてないけど、まだ辺りは暗いはずだ。
……だったら、なんだ? ……と言うか、なんか、誰かが上に乗ってる……? ちょっと重いんだけど。
「起きてください、私の大好きな嘘つきさん」
朧気な思考でそう思っていると、今度ははっきりとそんな声が聞こえてきた。
思わず眠気なんて忘れて、目を開いた。
すると、俺の上にはアリーシャが跨っていて、俺を見下ろしていた。……服を着ず、裸で。
「あ、アリーシャ!? な、何やってるんだ!?」
美少女の裸……これに関しては、あんまり考えたくないけど、リアやラミカで慣れている……ってのもどうかと思うけど、慣れてるんだ。
だから、まだ、まだ大丈夫だ。
ただ、アリーシャの裸っていうのが不味い。
これこそあの公爵に知られたらどうなる? ……答えは一つだ。終わる。公爵に今よりもっと嫌われて、責任を取らされる。
だって、貴族の女の子の裸だぞ? そんな女の子の裸を見た、だなんてことになったら、当然責任くらい取らされるに決まってる。
そして、そのまま逃げることすら出来ずに、俺の罪が明るみに出るんだ。
そうなったら、公爵は嬉々として俺の首を取りに来るはずだ。
「ふふ、夜這い、ですよ」
そんな俺の絶望を知らず、アリーシャは恍惚とした笑顔を浮かべて、そう言ってきた。
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