そんなに嫌なら
「申し訳ないが、要件がそれだけなのなら、出ていってくれませんかね? 私も色々と忙しいんですよ」
俺が何も言わずに黙っていたからか、公爵は笑顔……笑顔? ……笑顔ってことにしておこう。
笑顔で、そう言ってきた。
一応俺恩人なんだけどな。
……いや、全部マッチポンプだし、大事な娘と何処の馬の骨かもわからん男が一緒に寝ようとしてるんだ。当然そんな反応にもなるだろうし、むしろ俺はそれを阻止して欲しくてここに来たんだよ。
出ていってくれとか言わないで、大事な娘と同じベッドで寝させるわけがないだろう! とか大声で言ってくれよ。それこそ、アリーシャにも聞こえるようにさ。
そしたら、俺も仕方なく諦めたってことで何故か断らせてくれなかったアリーシャにも言い訳ができるんだからさ。
「いや……それは、分かる、ます……けど、その、もうちょっと何か、無い……んですか?」
そう思った俺は、何故かアリーシャと一緒に寝ることを口では許した公爵に反対して貰えるようにそう言った。
「…………無いですね。早く戻ってください」
すると、一秒でも早く俺に部屋から出ていって欲しいのか、公爵はそう言ってきた。
……そんなに俺とアリーシャが一緒に寝るのが嫌なのなら、ダメだと一言言えばいいじゃないか。
権力の差を考えてくれ。俺は一言ダメと言われるだけでもう無理なんだぞ? 言ってくれよ。ダメだって。
「……分か、りましたよ」
そうして俺は部屋を出た。
あの公爵は何かアリーシャに弱みでも握られてるのか? ……いや、そんなわけないか。
「はぁ」
「ダメだと言われたんですか?」
思わず出てしまったため息を聞いた、部屋の前で待っていたクローリスはそう聞いてきた。
……逆だよ。ダメだと言ってくれなかったから、俺は落ち込んでるんだよ。
……いや、ダメだって言われたってことにするか? 別に公爵にはアリーシャと寝ろ、とか言われたわけじゃないし、正確にはどっちでもいいって感じだったんだ。だったら、別にいいんじゃないか?
「あ、あぁ、そうなんだよ。……そんなわけで、俺を普通の部屋に案内してくれ。アリーシャへの報告は悪いんだけど、その後にクローリスがしておいてくれ」
そんな考えに至った俺は、嘘がバレないかと内心でヒヤヒヤしながらも、クローリスにそう言った。
「そうですか。……それでは、残念ですけど、違う部屋にご案内致しますね」
「あ、あぁ、助かる」
よ、よし、クローリスには悪いけど、騙せたっぽいぞ。
……まぁ、あれだ。ちゃんと公爵に確認を取らないクローリスが悪いってことで許してくれ。俺は悪くない。
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