夜這い
「ふふ、夜這い、ですよ」
俺の絶望を知らず、アリーシャは恍惚とした笑顔を浮かべて、服を着ずに俺に股がったままの姿勢でそう言ってきた。
いや、そんなのは見れば分か……りたくないけど、分かるわ! そうじゃなくて、なんでそんなことをしてるんだって話を俺はしてるんだよ!
貴族の令嬢だろ? 夜這いなんてしていいわけがないだろ。……いや、そもそもの話、これは俺しか知らないことではあるけど、アリーシャは貴族の令嬢であると同時にこの世界のヒロインだろ! さっきも思ったが、夜這いなんてしていいわけがないんだよ!
「あ、アリーシャ、と、取り敢えず、あれだ。服、服を着よう」
そう思いながらも、俺はなるべくアリーシャの肌に触れないように、そして見ないようにしながらも、そう言った。
「? 嫌ですけど」
すると、アリーシャは小さく首を傾げながら、そう言ってきた。
嫌、とかじゃないんだよ。頼むから、せめて服を着てくれ。
アリーシャは夜這いをしに来たと言っている。
だったら、今からアリーシャがしようとしていることなんて一つだ。……ただ、アリーシャとそういうことをするのは、絶対にダメだ。
だって、リアは公爵家に抱えられているSランク冒険者とはいえ、平民だ。そして、ラミカも裏組織では幹部だったとはいえ、当然平民だ。
対してアリーシャはどうだ? 貴族でこの世界のヒロイン。……うん。やっぱり絶対ダメだな。
「……私の体、そんなに魅力的じゃないですか?」
相変わらずアリーシャの肌に触れないように、見ないようにしながら、どうやってアリーシャに退いてもらおうか、服を着てもらおうかと考えていると、アリーシャは突然そんなことを聞いてきた。
ヒロインなんだから、魅力が無いわけがないだろ。それでも、俺は見ないように頑張ってるんだよ。
俺の為にも、アリーシャの為にもな。
「ねぇ、どうですか?」
「ッ」
もういい、怪我をさせないようにしつつも、背に腹は変えられない。少し怖いけど、無理やりにでもまずは俺の上に跨ってきているアリーシャをどかそう。
そう考えたところで、アリーシャは俺の上に跨っている状態から前に体を倒して、俺にアリーシャの綺麗な体を押し付けてきた。
それと同時に、赤くなったアリーシャの整った顔が目の前に迫ってきた。
俺は少し前のことを思い出して、咄嗟に自分の口を手で守った。
自意識過剰なだけなのなら、それでいい。……ただ、油断して、またキスをされるなんてことになったら、不味い、からな。
「凄い、ドキドキ、してますね。……えへへ、私も、してますよ。分かりますよね?」
……分かる。
これだけ体が密着してたら、相手の心音なんて簡単に感じ取れる。だからこそ、分かってしまう。
俺と同じで、アリーシャもドキドキしてるのが。
「……俺は、して、ない。……ドキドキなんてしてないから、退いてくれ」
そう思いつつも、そのことを認める訳にはいかないから、俺はそう言った。
「ふふ、また嘘ですか? そうですよね。あなたは嘘つきですもんね。でも、そんなあなたでも、私は好きですよ。……その手、退けてください」
すると、アリーシャは俺と目を合わせながら、ゆっくりとそう言って、俺の手をどかそうとしてきた。
アリーシャは強くなったとはいえ、リアやラミカとは違う。だからこそ、俺の方が力が強い。
無理やりどかされたりはしない。できない。
……と言うか、アリーシャは今なんて言った? 好き? 俺の事を? ……無い、だろ。……どこに俺なんかを好きになる要素があるんだよ。
こんなことを思うのは俺を好いてくれてるラミカに悪いとは思うけど、どれだけ考えても、俺には分からない。
俺の方が力が上なんだから、大丈夫。
そう思って、そんなことを考えていると、突然俺の体に力が入らなくなって、アリーシャに簡単に口を守っていた手をどかされた。
そしてそのまま、俺に何かを言う暇を与えてくれることも無く、アリーシャは俺に唇を重ねてきた。
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