いや、なにそれ。マジで知らないんだけど

「そういえば、仕事って何をしてるんだ?」


 リアがどこにかは分からないが、戻っていってフィオラと二人きりになってしまった俺は、そう聞いた。

 前世の物語としての知識でフィオラが何のためにこの街に来てなんの仕事をしてるのかくらい知ってるけど、話されてないんだから、俺が知ってたらおかしいかもしれないしな。

 護衛の話を了承してくれたんだし、話してくれるだろ。


「……誰にも言ってはダメですよ?」


 そう思っていると、フィオラがそう言ってきた。

 当然、そんな言葉を聞いた俺は、フィオラに向かって頷いた。


「もう既に噂として聞いたことがあるかもしれませんが、今現在、この街で戦争が起きています。わたくしはその戦争で出てしまった負傷者を治療するためにこの街に来たのです」


 うん。やっぱり知ってたな。


「そうなのか。……凄いな」

「……いえ、これがわたくしの聖女としての役割ですから」

「そうか」


 そんな立派なことをしてるのに、命を狙われてるんだがら、本当に嫌な世界だよな。

 ……いや、物語の世界なんだけどさ。……その命を狙うやつが居なかったら、主人公と運命の出会いが出来ないんだし、仕方ないんだろうけど。……まぁ、そういう意味だと、この、俺が即殺モブに転生してしまった世界は本当に嫌な世界だな。……だって、俺のせいで、自分と同じ目を持った主人公と運命の出会いを果たすことがないんだから。

 ……いや、案外世界の修正力とかでどこかで出会ったりするのかもな。……うん。そう思っておこう。そっちの方が、俺の心的にも楽でいいわ。

 アリーシャとヘレナの二人もいつかは主人公に出会うだろうしな。


「そろそろ向かいましょうか」

「分かった」


 そう思っていると、フィオラが俺にそう言ってきたから、俺は頷いた。

 仕事……と言うか、負傷者をどこで治療するのかは知らんが、フィオラの近くに居ないとダメだからな。


「…………何故、わたくしは聖女なのでしょうか」


 そうして護衛としてフィオラについて行っていると、当然フィオラは呟くように、そんなことを言ってきた。

 ……マジでいきなりなんだ?


「……こんな目があるから、聖女なのでしょうか」


 ……目の話って確か一般には公開されてなかったよな。なんでそんな話を俺にするんだよ。……俺は物語の知識で知ってたけど、フィオラからしたら俺がその目のことを知ってるなんて知らないんだから、話さないだろ、普通。


「目?」


 そう思いながらも、こう聞かないと明らかに不自然だから、俺はそう聞いた。


「……はい。わたくしの目は普通じゃないんです」

「俺には普通に見えるけど」


 俺がその目のことを知らないんだったらともかく、知ってるんだから、ただの茶番でしかないんだけど、俺はそう聞いた。


「……違います。普通、なんかじゃありません。……わたくしの目は、洗脳の魔眼なんです」


 すると、フィオラは泣きそうになりながら、俺の顔を伺うようにして、そう言ってきた。

 ……ただ、俺の頭は困惑という感情が強すぎて、涙を流しそうなフィオラに何かを言う余裕なんてなかった。

 何を言っている? ……洗脳の魔眼? いや、なにそれ。俺、マジで知らないんだけど。そんなの、どれだけ物語の中の記憶を思い出しても、知らないぞ。

 嘘を見破るだけの目じゃないのか? 洗脳の魔眼……? ダメだ。本当に知らない。

 どうなってるんだ? いや、そもそも、フィオラの目が洗脳の魔眼なんだとしたら、嘘は見破れないのか? ……え? じゃあ俺の今までの嘘をつかないようにしてた努力は完全に無駄ってことか?

 

「だからなんだよ」


 俺の努力や緊張が完全に無駄だったとわかった俺は、思わず少し強く、そう言ってしまっていた。

 いや、しょうがないじゃん。まさか全部勘違いで、俺が勝手にビビってただけなんて。普通に恥ずかしいわ!

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