そういうのは主人公に話すのが一番いい結果になると思うんだけどな

「だからなんだよ」


 俺の努力や緊張が完全に無駄だったとわかった俺は、思わず少し強く、そう言ってしまっていた。

 いや、しょうがないじゃん。まさか全部勘違いで、俺が勝手にビビってただけなんて。普通に恥ずかしいわ!

 

「……え?」


 すると、フィオラは呆けたように目を見開きながら、思わずといった感じにそう言ってきた。

 ……ちょっと言葉が強かったか? いや、でもしょうがないだろ。俺のさっきまでの努力が全部無駄だったって気づいちまったんだから。

 凄い苦労してたんだぞ。嘘をつかないようにフィオラの問答に受け答えするの。


「……あー、その、洗脳の魔眼? だっけ? それ、なんか悪いことに使ったのか?」


 そう思いながらも、俺はフィオラを気遣うようにそう言った。

 いや、だって完全な八つ当たりだってことは自分でも分かってるしな。


「し、してません! わ、わたくしは本当にこの目をそのようなことにはーー」

「じゃあ、別にいいだろ」


 悪いことに使ってないんだったら、別にどうでもいいだろ。使ってないのなら、その洗脳の魔眼なんてあってないようなものだと思うし。

 

「し、信じてくれるんですか?」

「ん? まぁ、フィオラが使ってないって言うなら、使ってないんだろ」


 すると、フィオラは涙が零れ落ちそうなのを堪えながら、そう言ってきたから、俺は反射的にそう返した。

 原作知識的にそんな嘘をつく性格じゃないことは知ってるしな。

 

「ッ、は、はいっ!」


 そう思っていると、フィオラはさっきまでの表情が嘘だったかのように、笑顔で頷いてきた。

 

「あ、あの、わたくしの話を、もう少し、聞いて貰えないでしょうか?」


 そして、そのまま俺の顔色を伺うようにして、そう言ってきた。

 ……ラミカがフィオラの命を狙っているやつをちゃんと捕まえ……いや、ラミカの場合は殺すか。……ま、まぁ、とにかく、ちゃんと殺せたかの確認ができない以上、同じ場所に留めておく方が周りの気配を察知しやすいだろうし、俺はそんなフィオラの言葉に頷いた。


「わたくしは……子供の頃から特別……いえ、普通じゃなかったんです」

「またその洗脳の魔眼が絡んでくるのか?」


 別に嫌な訳では無いけど、また同じ話をされるのかと思って、俺はそう聞いた。


「いえ、違う……とも言いきれませんが、少し違います」


 ? 随分と歯切れが悪いが、どういうことだ?


「わたくしは、人の嘘が分かるのです」


 そう思っていると、フィオラはそんなことを言ってきた。

 俺はそんな言葉を聞いた瞬間、思わず息を飲みそうになった。

 だって、全然勘違いじゃないじゃん! え? 俺の努力、無駄じゃなかったのか? ……いや、無駄であって欲しかったんだけど? フィオラに八つ当たりをしておいて何を言ってるんだって感じだけど、それはマジで無駄であって欲しかったんだけど。

 ……と言うことは、また俺は嘘をつかないように気をつけないといけないのか。


「……子供の頃のわたくしは、自分のことを特別なんだと勘違いしていました」


 そんなことを思っていると、俺の心の中の絶望なんて知る由もないフィオラは話を続けていた。

 ……勘違いでもなんでもなく、そんな力を持ったフィオラは特別だと思うけどな。


「……わたくしの故郷は小さな村でした。……ある日、村にやってきた商人が村で育てていた農作物を安く買い叩こうとしていたのを、わたくしは見破り、それを大人に伝えました」


 よくありそうな話だな。……いや、安く買い叩かれていることに気がつく田舎の村人なんて中々いないと思うけどさ。それが子供なら尚更。

 

「当然最初は信じて貰えませんでしたが、色々と調べてもらった結果、わたくしの言っていることが本当にだと分かりました。……色々な方達に褒められました。両親にも褒められました。……だから、調子に乗ってしまったんです。その時のわたくしは、ただ、嘘を見破ったことを褒められたのだと勘違いをして」


 ……何となく話が見えてきてしまったかもしれない。

 多分、嘘を色々と見破りまくったって話だろ? 確かに、商人の嘘を見破ったのは村の人達にとって利益がある事だから良かったけど、自分の嘘を見破られるのは単純に嫌だろうしな。

 うん。まさに俺だ。他人の嘘が見破られようとどうでもいいけど、俺の嘘が見破られるのは本当に嫌だもん。俺の嘘がバレるとか、本当に致命的だし。バレたら一瞬で全てが終わる嘘とかいっぱいついてるし。


「だから、わたくしは、色々な人の嘘を見破り、表に晒しました。……色々な人から恨まれました。……それこそ、両親からも」


 そう思っていると、また、泣きそうな顔になりながら、フィオラはそう言ってきた。


「みなさん、口ではそんなこと、一切表に出すことはありませんでしたが、わたくしは、嘘が分かります。……分かってしまいます。……だから、すぐに分かりました。……みなさん、わたくしの事が嫌い、なのだと」


 ……俺は親がいた事なんて無いから分からないが……いや、前世ではいたのかもしれないけど、記憶ないし、それはいいとして、多分、辛いこと、だよな。……血の繋がった親に嫌われるっていうのは。……しかも、面と向かって嫌いって言われる訳じゃなく、内心で嫌われてるっていうのはもっと辛いと思う。


「……そんな時でした。わたくしの目が、特別なのだとたまたま村を訪れた聖職者の方に言われたのは。……村のみなさまは良い厄介払いだとばかりに、わたくしを聖職者の方に引渡しました」

「辛いのなら、別に話さなくてもいいぞ」


 今にも泣き出しそうなフィオラを見ていられなくて、俺はそう言った。

 はぁ。ヒロインがこういう顔をしてる時は普通、主人公が何かを言うところだろうが。……主人公は一体何をしてるんだよ。ほんとに。……いや、今ここに主人公が居ないのは俺のせいなんだけどさ。

 ……でも、俺じゃあ主人公と違って、ヒロインを励ます言葉なんて出てこないんだよ。


「お気遣い、ありがとうございます。でも、大丈夫です。わたくしが、あなたに、聞いて欲しいんです」


 ……そういうのは、主人公に話すのが一番いい結果になると思うんだけどな。

 そう思いながらも、俺はそんなフィオラの言葉に頷いて、耳を傾けた。

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