え? 俺またなにかやっちゃったの?

「ほんとにただの知り合ーー」

「恋人だよ〜。私のことを思い出したから、もうお前はいらないって〜」

「は?」


 やめて。ラミカ元先輩、お願いだから、話をややこしくしないでくれ。

 ラミカ元先輩とは本当にそんな仲じゃないし、悪ふざけで言ってるってことは分かるんだけど、最初に約束しただろ。余計なことは言わないって。


「……ほんと?」


 そう思っていると、リアがそう聞いてきた。

 ほんとなわけないだろ。そもそも、どっちも恋人じゃないし。


「そんな訳ないだろ」


 リアに対しては酒に酔わせたっていう後ろめたさがあるから、否定しにくいけど、ラミカ元先輩に関しては全く後ろめたいことなんてないから、俺は普通に否定した。


「……ん〜? なんで私の時はそんな直ぐに否定するのかな〜?」


 すると、笑顔を深めながら、ラミカはそう言ってきた。

 もういいだろマジで。……と言うか、なんで俺は今こんな面倒なことになってるんだ。……ただ、逃げたいだけなのに。


「今はいいだろ。とにかく、俺達はーー」


 いや、待てよ? ラミカを連れていこうとしたら、多分、自惚れじゃなければ、またリアは反応すると思う。


「いや、俺はもう行くよ」


 そう考えた俺は、そう言って、一人でその場を去ろうとした。

 

「あれ〜? さっきまで私と一緒に行く流れだったのに〜、何私を置いていこうとしてるのかなぁ〜?」


 すると、俺の肩に手を置いて、ラミカがそう言ってきた。

 いや、もう行かせてくれよ。ラミカなら俺の位置くらいいくらでも探し出せるだろ。……多分。


「……さっき、その人と用事があるって言ってたよね? なんで、一人で行こうとしたの? もしかして、嘘、だったの?」

「い、いや……」


 そう、だった。そんなことを言ってた俺が、ラミカを連れていかないで一人で行こうとするのは不自然、だよな。


「また、逃げようとしてる?」


 不味い。どうしよう。ここでいい言い訳を思いつかないと、フィオラの所に連れ戻される。……いや、ラミカが居たら大丈夫か? ラミカなら、リアにももしかしたら勝てるかもしれないし、そこに俺が加われば……足でまといになるだけだな。


「また〜? ってことは、昔に逃げられかけたんだ〜。記憶がなくても、やっぱり私の方が良かったんだね〜」


 違うから。記憶が無いって設定を否定しないでいてくれるのはありがたいけど、違うから。

 そもそも、あの時はラミカが組織を抜けるなんて思ってもなかったし、絶対会いたくない人の一人だったし。


「……違う。……そんな訳ない……よね?」


 そう思っていると、リアは心做しか不安そうに、そう聞いてきた。


「まぁ、ラミカの言ってることは全然違うな」


 悪いとは思うが、リアから……と言うか、公爵家の関係者全員から逃げたいとは思ってる。でも、ラミカのところに行きたくて逃げたわけじゃないし、嘘は言ってないはず。


「……良かった」

「え〜、気を使う必要なんて無いんだよ〜?」

「……うるさい」


 笑顔のラミカを睨むようにして、リアはそう言った。

 ……もう俺のいない所でやってくれないかな。


「……もういい。行こ? その人と用事があるって言うのは嘘なんでしょ?」


 そう言って、リアは俺の腕にくっついてきながら軽く引っ張ってくる。


「あなたには、フィオラの聖女としての仕事が終わった後の護衛が残ってるんだから」

「ん〜、何勝手に話を進めようとしてるの〜? ……と言うか、さっき話しに出てたフィオラって人、聖女だったんだ〜」

 

 いや、もう護衛は終わったんだ。もうフィオラが襲われることは無いんだ。

 だから、離してくれないか? ……いや、そんなことを正直に言えるわけが無いから、離してくれないんだろうけどさ。


「ねぇ〜、ちょっと来てよ〜」

「……ダメ」

「いや、お前には言ってないから〜。私は、元後輩くんに言ってるの〜」


 ラミカ、本当にお願いだから、リアを挑発しないでくれ。


「リア、少しだけ、話させてくれ」

「…………逃げたら、怒る」

「……分かってるよ」


 そう言って、リアに腕を離してもらった俺は、ラミカとリアに声が聞こえない所まで離れた。

 このまま逃げたい気持ちはあるけど、逃げたって相手はリアだから、追いつかれるしな。


「それで、なんだ? 何か話したいことがあったんだろ?」


 一応長い付き合いだ。それくらいは分かる。


「ん〜、色々聞きたいことはあるけど〜、それは後で教えてくれるんだよね〜?」

「あぁ、後でちゃんと話す」


 前世の記憶とかは言う気無いけど、それ以外は何となく前世の記憶をぼかしながらになるけど、話す気だ。


「ん〜、じゃあ、単刀直入に言うけど〜、そのフィオラって人〜? 私は知らなかったけど、聖女なんだよね〜?」

「まぁ、そうだな」

「そうなんだ〜。まぁ、私はどうでもいいけど〜、その聖女の暗殺依頼が私たちが元いた組織にも来てるんだよね〜」

「は?」


 聖女の暗殺依頼? いや、そんな依頼、原作には無かったぞ。

 フィオラを襲ってくるのは、あの俺が捕まえたやつだけのはずだ。

 なのに、なんでだ……? また、俺がなにか未来を変えちまったのか? 


「どうするの〜?」

「……死んで欲しくは無い、な」

「……なんで〜?」


 俺がそう言うと、ラミカがそう聞いてきた。

 まぁ、ラミカがそう言ってくる気持ちも分かる。……組織にいた時は、そんなこと、絶対言わなかっただろうし。


「俺はもう組織を抜けたんだ。人の心くらい持ってたっていいだろ」

「ん〜、でも〜、多分勝てないよ〜?」


 ……知ってる。……いや、だって、聖女暗殺に送られてくるようなやつだろ? 俺が勝てるとは思わねぇよ。……相手も暗殺者なんだし、正面からじゃなくても普通に負けそう。

 だから、それとなくリアにこのことを伝えて、聖女の……フィオラの近くにいてもらおうと思ったんだよ。……ちょっと危ないかもしれないけど、仕方ないリスクだろ。


「私なら勝てるけどなぁ〜。と言うか、私、そいつと一緒にこの街に来たんだし〜、断言できるよ〜? 私より弱いって」


 あ、そっか。

 リアに何とかしてもらうって思考で固まってたけど、今はラミカもいるのか。

 だったら、俺の素性とか知ってるラミカに頼む方がいいよな。


「頼めるか?」

「ん〜? どうしよっかな〜、私は別にその聖女が死んでもどうでもいいし〜?」


 ……めんどくさいな。

 あれだろ? こういう時は、なにか俺にして欲しいことがあるって相場が決まってんだよ。

 はぁ。楽……と言うか、俺に出来ることにしてくれよ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る