お願いだから、話をややこしくしないでくれ

「い、いや、俺はラミカと用事があるんだ。だから、リアはヘレナとアリーシャの護衛に戻ったらどうだ? なんか大事な用事があるみたいなこと言ってただろ」


 逃げようとしてる俺を怪しんで着いてこようとしてるリアに向かって、俺はそう言った。

 すると、何故かラミカの笑顔が深まった気がした。……いや、なんでだ?


「ねぇ〜、ヘレナとアリーシャってさ〜、公爵の娘達だよね〜、どういうことなのかなぁ〜?」


 そうだった! ラミカ元先輩はあの時裏組織で俺が受けた仕事を知ってるんだった!

 あの時の俺の仕事を知ってたら、そりゃ意味分かんないよな。……いや、意味が分かんないどころか、これは後でちゃんと説明しないと、変な誤解をされる可能性すらあるな。……それこそ、俺がマッチポンプで二人のヒーローになる為に裏組織を抜けた、とか。


「私の恋人が二人を助けた。……それと、仕事はもう終わったから、大丈夫」


 そう思っていると、リアがめちゃくちゃ余計なことを言いやがった。

 口には出せないけど、恋人じゃないし、仕事がもう終わったってなんだよ! ……と言うか、これってアリーシャとヘレナがあの街に居るのか、仕事が終わったから俺の監視の為に走ってここまで来たのか、どっちだ? ……正直、どっちもありえるんだよな。……リアだし。


「……は? 助けた〜? ん〜? ほんとにどういうことかなあ〜?」


 ……そんな顔で見ないでくれ、ラミカ。……いや、そんな顔って笑顔なんだけどさ。……笑顔だけど、見ないでくれ。……怖いから。……本当に、怖いから。

 俺は内心ビビりながらも、こっそりと「後で話す」と目でラミカに伝えた。……伝わってるよな? 伝わっててくれ。頼むから。


「ん〜、まぁいいや。じゃあ、私たちは行くから、お前は着いてこないでね〜」

「……帰ってくるかも怪しいから、着いていく」


 ……なんでこの二人はこんなに仲が悪いんだよ。……いや、会ったばっかりなんだし、仲が良くても意味わかんないけど、今みたいに悪すぎるのも意味わからんだろ。


「帰るに決まってーー」

「帰る〜? よく分かんないけど〜、お前から逃げる為に、私の元後輩はここまで来たんでしょ〜? お前のところなんかに帰るわけ無いよね〜?」


 全くそんな気は無いけど「帰るに決まってるだろ」そう言おうとしたところで、ラミカは俺の言葉に被せるようにして、そんなことを言いやがった。

 なんでそんなに察しがいいんだよ! そうだよ。それが事実なんだけど、それ、マジで言わないで欲しかったな。


「……どういうこと?」


 そう思っていると、今度はリアが俺に詰め寄ってきた。

 

「い、いや、そんな訳ないだろ? ほ、ほら、これを見ろ。俺は護衛中だったんだが、コイツに狙われてることに気がついてな? それでフィオラから引き離すために、ここまで逃げてきたんだよ」


 咄嗟に目に付いた白目を向いているさっきまで俺の命を狙ってきていた男を指さして、俺はそう言った。

 ラミカ、頼むから、マジでもう何も余計なことは言わないでくれよ。

 

「…………そうなの? ……じゃあ、なんであなたを狙ったんだろ。……ん、そういえば、あなたって、記憶、無いんじゃ無かったっけ? なんで、知り合いっていうその人を追いかけられたの?」


 ……そういえば、そんな設定だったな。俺。


「……顔を見たら、ちょっと思い出したんだよ。記憶喪失って、いきなり思い出すって言うだろ?」

「……そうなんだ。……どういう関係だったの?」


 良かった。上手く誤魔化せそうだ。


「ほんとにただの知り合ーー」

「恋人だよ〜。私のことを思い出したから、もうお前はいらないって〜」

「は?」


 やめて。ラミカ元先輩、お願いだから、話をややこしくしないでくれ。

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