元先輩
「ほら〜、早く名前で呼んでみてよ〜」
やばい。どうしよう。
名前、名前……先輩の名前……あれだ。最初、本当に最初に出会った頃、名乗ってたんだよ。……なんだったっけな。
「ねぇ〜、まだ〜?」
「……い、いや、先……あ、あなただって、俺の名前を呼ばないんだから、お互い様だろ」
笑顔で元先輩にそう急かされた俺は、冷や汗を流しながらそう言った。
いや、俺名前ないんだけどさ? そう言うしかないだろ。
「え〜、そんなこと言ったって〜、君は名前ないじゃん。私が付けていいならつけるけど〜、この前は断ってきたよね〜? もしかして、今なら付けていいの〜?」
「絶対ダメ」
いや、だってこの人、普通にネーミングセンス無いんだもん。絶対嫌だわ。
「……じゃあ私は君の名前なんて呼びようがないじゃん! だったら、早く私の名前呼んでみてよ〜」
「いや、それはちょっと……」
俺だって別に呼びたくない訳ではないけど、名前を知らないんだから、仕方ないだろ。
そう思って、俺は何かを渋るようにそう言った。
「何で? まさかとは思うけど、私の名前忘れちゃったとか〜?」
「そ、そんなわけないでしょ。何年一緒にいたと思ってるんだよ」
別に望んで一緒に居た訳では無いけど、長い時間一緒にいた事は事実だから、俺はそう言った。
……いや、そんなに長い間一緒に居ても知らないんだけどさ。
「ふーん、じゃあ、呼んでみて?」
「………………」
「今、正直に言ったら許してあげるんだけどな〜」
……確かに、今言ったら、多少はマシになるかもしれないけど、絶対許してくれないだろ! ……ただ、ここで正直に言わなくて、絶対後々バレるんだし、正直に言うか。
「……いつも先輩先輩言ってて、名前を忘れてしまいました。ごめんなさい」
「へ〜」
あー、やばい。先輩の笑顔が深まった。
先輩って、怒ってる時も悲しんでる時も普通に嬉しい時も全部の感情で笑顔になるから、普段は今どんな感情なのかとかあんまり分からないんだけど、今だけは分かる。明らかに、怒ってる。
「……ラミカ、それが私の名前。次、忘れたら……分かるよね〜?」
「分かった。覚えた。絶対忘れない」
良かった。なんかよくわからんけど、許されたっぽい。
……ん? と言うか、今更だけど、先輩……じゃなくて、ラミカは組織を抜けるんだとして、これからどうするんだろうな。
まぁ、俺と違ってラミカは正面からでも強いから、さっきの俺みたいに危なくなることなんて無いと思うし、どこに行ってもやっていけそうだな。
「じゃあ、またな、ラミカ」
「うん。何を言ってるのかなぁ〜?」
何って、え? もしかして、もう俺と会う気は無いとか? ……それともここで始末するから、もう会える機会なんて無いっていう事だったりする? ……やっぱり今からでも土下座して謝ろうかな。
「私も君と一緒に行くに決まってるじゃん」
そう思って、土下座をする為に膝を地面につこうとしたところで、ラミカはそう言ってきた。
「……は?」
この元先輩は何を言ってるんだ? ダメに決まってるだろ。こんな元先輩と一緒に帰りでもして、フィオラに根掘り葉掘り聞かれたらどうす……いや、何をナチュラルに俺は帰ろうとしてるんだ。
逃げる為にここにいるんだから、フィオラの所に帰るわけが無いだろ。
ラミカと出会って、少し……いや、かなり頭がバグってたな。
うん。そう考えたら、俺の護衛という意味でもラミカが近くにいてくれるのは安心だし、別にいいか。
「何〜? もしかして、嫌なの〜?」
「いや、是非一緒に行こう」
「やった〜」
そう思って、俺はラミカに向かってそう言った。
「ん〜? 今向かってきてるのって、知り合い〜?」
……嫌な予感がする。……俺が気が付かなくて、ラミカが気がつくような相手。……うん。最近凄い身近に居たわ。
「ちなみになんだけど、逃げられそう?」
「私一人なら〜。……あ、頑張ったら、気絶させてそのまま逃げられるかも〜」
「……取り敢えず、俺の知り合いなら、余計なことは言わないでくれ」
「ん〜、分かった〜」
よし、俺にはラミカっていう下手したらリアと同等くらいに強い心強い味方がいるんだ。
なんとかなるだろ。
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