多分感動(?)の再開

 敵の位置を特定するために幻術スキルを使おうとしたところで、俺を殺そうとして来てたやつと思われる男が白目を向きながら俺の方に向かって飛んできた。

 

「……は?」


 意味が分からなすぎて、俺は思わずそんな間抜けな声を出してしまった。

 ……気絶してる。……え? マジでどういう事だ?  


「久しぶり〜、ねぇ、こんなところで〜、何してるのかなぁ〜?」


 俺がそれ以上の何かを思考する暇もなく、そんな声がどこからともなく聞こえてきた。

 知ってる。凄く、知ってる声だ。……命を狙われているこの状況。少し前までなら、嬉しかったかもしれないが、今だけはやめて欲しかった。……いや、今だけって訳じゃないな。俺が組織を抜けたあの瞬間から、最も会いたくない人物だ。


「あ……ひ、久しぶり……です。……先輩」


 姿は見えない。

 だからこそ、下手に刺激しないように、俺はそう言った。

 今、俺はこの世界に来て一番恐怖しているかもしれない。

 リアとやり合った時だって、殺されるなんて可能性は無かったから、大丈夫だったけど、先輩は違う。

 組織にいた頃の先輩。……当然、俺の裏切りも知ってるはずだ。

 

「うん。それで〜? なんで裏切ったの〜?」


 すると、そう言いながら、どう見ても暗殺者には向いていなさそうな金髪のキラキラとした美少女が笑顔で現れた。

 ……組織にいた時は、あんなに頼もしかった先輩が今は完全に恐怖の対象だ。……いや、普通に組織にいた時から尊敬はしてたけど恐怖の対象ではあったな。


「それは……ですね、海よりも深い事情があるんだよ……です」

「……ふーん。海よりも深い事情なんてどうでもいいけどさ〜、その下手な敬語、やめてって言ったよね〜? 忘れちゃったの〜?」

「い、いや、忘れてたわけじゃない。明らかに怒ってる様子だったし、下手でも敬語の方がいいと思ったんだよ」


 ……多分だけど、前世の記憶があるにもかかわらず俺が敬語を使えないのってあんたのせいなんだよ。

 だって、この人俺が組織にいた時、俺が敬語を使おうものなら問答無用で俺の事を笑いながらボコボコにするんだもん! サイコパスだよ! 正真正銘のサイコパスだよ! この人は! こんな可愛い見た目をしてるからこそ、その怖さが滲み出すんだよ!

 

「ふーん。じゃあ、外してね?」

「はい」

「それじゃあ話を戻すけど〜、なんで裏切ったの〜?」


 あー、やばい。こんなことなら、フィオラと一緒にいた方が良かったな。

 と言うか、なんでこんなところに先輩がいるんだよ。


「だから、海よりも深い理由があるんだよ」


 そう思いながらも、俺はそう言った。

 海よりも深い理由……それは、俺が死にたくないからだ。

 ……あれだ。生きる者にとっては深い理由だろ。


「うん。だから、それを教えて?」

「……死にたく無かった」

「……それだけ〜?」

「それだけだよ」


 正直に答えたんだし、ここは見逃してもらえたりしないかな? 先輩って変わった人だし、全然見逃してくれる可能性はあると思う。


「じゃあ先輩、俺はもう帰っていいかな」

「ん〜? ダメに決まってるでしょ〜? と言うか〜、戻ってくる気は無いの〜?」

「戻れないでしょ」


 俺は先輩が放り投げてきた、さっきまで俺の命を狙っていたやつを見ながら、そう言った。

 俺は組織を裏切ってるし、あっちだって俺を消そうとしてる。

 戻るなんて無理だろ。……そもそも戻れたとしても、戻らないけどさ。


「え〜、じゃあ私も組織抜ける〜」

「はぁ?」


 この先輩は何を言ってるんだ。

 

「これからはもう先輩じゃないから、名前で呼んでね〜」


 ……この人が決めたことに俺なんかが口を出して何か気に触ったら嫌だから、何も言わないけど、先輩呼びを禁止されるのはまずい。

 ……ずっと前から先輩先輩って呼んでたから、俺、先輩の名前知らないんだよな。

 ……これ言ったら殺されるかな?

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