忘れかけてたけど

 突っ込まれたら終わる。

 かと言って、何もしないわけにもいかないから、俺はダメ元で足元にあった石を魔獣に向かって蹴り飛ばしてから、リア相手に使った全く熱くない炎を体に纏って魔獣に突っ込んだ。

 相手はかなり強い魔獣だ。俺なんかを警戒している時点で程度が痴れてるかもしれないが、頭もいいはずだ。

 だから、こんな格好で突っ込まれたら当然警戒するよな。

 

「グルルルゥゥゥ」


 すると、自分を鼓舞する為か、そんな声を上げながら魔獣も俺に向かって突っ込んできやがった。

 その瞬間、俺は纏っていた炎を大きくして、その魔獣を飲み込むように炎を放った。

 

「グルルルルルゥゥゥゥッ!」


 熱いとでも思ったのか、炎が魔獣を飲み込んだ瞬間、魔獣はそんな声を上げていたが、俺は気にすることなくもう一度スキルで背後に回り込み、癖で隠し持っているナイフで魔獣の命を絶った。


「ふぅ、お前が無駄に俺を警戒してくれて助かったよ」


 もし俺のことを警戒してなかったのなら、俺が炎を体に纏った時、周りの温度が全く変わってないことに気がついただろうしな。

 もしそれに気がついていたなら、炎に体を飲み込まれたとしても、動揺なんてせずに俺の気配を感じ取れてただろうし、本当に助かったよ。


 初見殺ししか出来ないスキルでも組み合わせればこんな感じで新しい初見殺しが生まれるんだ。最近は正面からの戦いはやられてばっかりで逃げ腰になってたから忘れかけてたけど、俺は強いんだよ。

 

 死体……は持っていけないし、このままでいいか。

 アンデッドとかになったら悪いとは思うけど、今は処理してる余裕もないしな。


 そう思った俺は、魔獣の死体をそのままに気配を消しながら歩き出した。

 走ろうかとも思ったけど、流石に体力が落ちてるのか、少し疲れたからな。

 嫌な予感はまだあるが、少し歩いたらすぐに走る。だからまぁ、大丈夫だろ。


 そうして歩いていると、いきなりナイフが飛んできた。

 俺は何とか体を逸らして避けられたけど、木に突き刺さったナイフを見るに明らかに毒が塗ってある。……俺を消しに来た組織の人間、だよな。……連戦かよ。

 しかも、俺は未だに相手の位置が分かってないし、明らかに不利な状態での連戦。……やばいな。


 ……下手には動けない。

 見せかけだけの炎で視界を奪うか? いや、ダメだな。……一応気配は消してるはずなのに、相手が俺の位置を把握してるってことは格上の可能性が高いし、視界を奪ったところで意味は無い。……それどころか、単純に俺の視界が悪くなるし、更に不利になるだけだ。

 

 都合のいい話ではあるが、こういう時はリアに近くにいて欲しいと思うな。

 リアさえいれば、どんな相手だろうが負けるとは思えないし。


 そんなふざけたことを考えていると、今度は後ろから毒を塗ったナイフが飛んできた。

 一瞬俺が持ってるナイフで弾こうかとも考えたが、普通に体を逸らして避けた。

 無いとは思うけど、ナイフで弾いた場合塗ってある毒が俺に跳ねてくる可能性もあったし、怖いからな。


 そう思いながらも、俺は敵の位置を特定するために幻術スキルを使おうとしたところで、俺を殺そうとして来てたやつと思われる男が白目を向きながら俺の方に向かって飛んできた。

 

「……は?」


 意味が分からなすぎて、俺は思わずそんな間抜けな声を出してしまった。

 ……気絶してる。……え? マジでどういう事だ?



 

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