消えない嫌な予感

「あ、アリーシャ? どこに行くんだ?」


 アリーシャに引っ張られながら、聞こうか聞かないか、かなり迷った上で、俺はそう聞いた。

 だって、嫌な予感が消えないから。


「……本当は着いてきてもらう予定は無かったんですけど、また、私とヘレナだけ置いていかれてしまいますから」


 ? 置いていかれる? どういう意味だ? 

 いや、よく分からないし、別にそれはいいとして、どこに行くかを言わずに引っ張るのを取り敢えずやめてくれないか? 


「へ、ヘレナ、どこに行くか、教えてくれないか?」


 アリーシャは教えてくれそうにないと思った俺は、後ろを着いてきているヘレナにそう聞いた。


「知らないわよ!」

 

 すると、怒っているのか、絶対に知っているくせに顔を赤くしながらそう言って、俺から顔を逸らしてきた。

 リア……は知ってるわけないよな。……俺と一緒にいたんだもん。

 

 そうやって嫌な予感に襲われながらも抵抗できずに引っ張られていると、馬車の前に連れてこられた。

 

「どこに行くのかは着いてからのお楽しみです。中にどうぞ」


 俺が逃げないようにするためか、アリーシャは俺の事を先に馬車にの中に入れてきた。

 ……さっき、本当は着いてきてもらう予定はなかったって言ってたよな? ということは、本来は二人で行こうとしていたってこと。……公爵令嬢がしなくちゃならない何か、とかか? いや、でもなぁ……それなら、なんで俺を連れていくのかが分からない。邪魔になるだろ。どう考えても。

 

 そう考えながらも、俺は馬車の中に腰を下ろした。……本当は今すぐにでも逃げ出したいけど、出口は塞がれてるし。

 すると、相変わらずと言うべきかアリーシャはニコニコとしながら俺の隣に座ってきて、ヘレナは不機嫌そうにしつつも、黙って俺の隣に座ってきた。

 ただ、俺は何も言わなかった。

 いつもだったら、何か二人に対して文句を言っていたかもしれないけど、今はそんなことに反応している暇がなかったからだ。

 この嫌な予感の正体を知らないと、本当にまずい気がするんだ。




 そう思って考え続けて、10分くらいが経ったと思う。

 ダメだ。時間が経てば経つほど、嫌な予感が強くなっていってる気がする。

 

「……アリーシャ、俺、用事があったのを思い出したんだけど」


 そう思った俺は、かなり苦しいことを理解していながらも、そう言った。

 

「用事ですか?」

「あ、あぁ、そうなんだよ」


 あれ? もしかして案外信じてくれるのか?


「リア、本当?」


 そう思ったのもつかの間。

 ヘレナがアリーシャに変わって、リアに対してそう聞いていた。

 俺はその瞬間、リアに対して目で頷いてくれと訴えかけた。


「……知らない」


 俺の訴えが伝わったのか伝わってないのか、リアは一言そう言った。

 ……本当なら肯定して欲しかったけど、嘘は言いたくないみたいなこと言ってたし、仕方ない、か。……否定されなかっただけ、ありがたいと思うことにしよう。


「あ、あれだ。リアにだって、知らない俺の予定くらいあるさ」

「ずっと一緒にいるのに、ですか? それこそ、夜であっても、お風呂であっても」


 俺がそう言うと、アリーシャはヘレナに聞こえないように、俺の耳元で小さくそう言ってきた。

 ……あ、あれだからな!? 別に夜とか風呂とかは俺が望んで一緒にいるわけじゃないからな!? ……いや、別にそれ以外の時も望んでないけどさ!

 

「……そ、そう、なんだよ。だ、だから、馬車から降ろしてくれるか?」

「本当、ですか?」

「う、嘘なわけないだろ」


 思いっきり嘘だけど、俺はバレないようにそう言った。

 

「……後で確認したらいいじゃない」


 すると、ヘレナが俺から顔を逸らしながらも、そう言ってきた。

 後で確認? ……俺が嘘を言ってるか言ってないかの? ……え、昨日の冒険者ギルドにあった水晶でも持ってくる気か?


「い、いや、それは急ぎの用事でな」


 そう思った俺は、慌ててそう言った。

 だって、あんなの持ってこられたら、一発で俺が嘘をついてるってバレるじゃん。

 

「大丈夫ですよ? どうせもう着きますから」

「は?」


 アリーシャのそんな言葉と同時に、馬車が止まった。……止まってしまった。

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